夕方の6時ごろぐらいで、学校帰りの学生とかもいたんだけど、駅の前の駐輪場ですごいものを見た。
運動部なのかな。わかんないけど、とりあえずでっかいエナメルバック抱えた学生が自転車の籠にそれ入れたんだ。
もう、ガシャーンって。ガシャーンってなった。ドミノだった。学生さん大慌て。周りの人は突然の騒音で固まってた。ちょっとして笑ってた。
で俺はコーヒーを自販機で買ってて、自販機がガシャンって言った後ろでガシャーンって学生さんがやっちゃったので、最近の自販機は大音量だなぁとか苦笑いしながら振り向いた。
噴き出すところだった。学生さんがすごすぎた。
自分の自転車が自分に倒れかかってて、それを戻したいけどエナメルバック重くて直せなくて、エナメルバックを取るために手を離したら自電車が自分に襲いかかる。極限。
超必死だった。彼は全身全霊を持って自転車をたてなおそうとしてた。でも足場はドミノした自転車でがたがただった。俺はあの状況だったら半泣きだと思う。
俺は日頃人にいいことをする人間じゃないし、バスでお婆さんとかお爺さんに遭遇しても恥ずかしくて、席どうぞって言えない。
でも、あの時だけ俺は偽善者で、彼の足元の自転車を立ててた。気付いたらやってた。
全部立てて、彼も自転車を持ち直してちっさい声で「すいません」って言って、自転車を出した。
お礼を言って欲しかった訳じゃなかったから、小さい声でも俺はちょびっと嬉しかった。ていうかかなり嬉しかった。棚からぼた餅。
でも彼は5m行かない地点でこけた。ガシャーン2回目。俺が彼の状況なら自殺を考え始めるところだ。
近寄って大丈夫かと聞いたら、幸い怪我はなかった。心は重症だと思うけど。
自転車の方が原因だった。チェーン外れてますよ。お若い人。
彼はもう本当に(俺から見て)心がっていうか、羞恥心が限界で顔が赤を通り越して青かった。
とりあえず自転車を支えてもらって、チェーンを直した。朝や晩は冷える地域だ。俺の手は油で真っ黒だったし、チェーンは冷たくてすごく手が痛かった。
とりあえずちょっとこいでもらって、大丈夫そうなのを確認。俺はほとんどの間無言だったし、彼にかけた言葉も「大丈夫?」と「持ってもらっていいかな」だけだと思う。
大丈夫そうだし、まぁよかったなーと思ってコーヒーを開けようとしたら、彼が俺に「あ、ありがとうございます!」って言ってくれた。
彼は言い逃げるようにして自転車に乗って行った。
コーヒーを飲みながら、俺はとうとう噴き出して、駅前で恥ずかしいのにニヤケ面でテクテク歩き、手を洗うために立ち寄った公衆トイレの洗面所で、寒さで顔が赤くなっているのを見て、慣れないことをしないようにしようと誓った。
今度から慣れないことはしない。慣れるためにやる時を除いては。
日頃から偽善するチャンスがあったらありがとうっていう合法ドラッグを率先してもらいに行っちゃうタイプなんだけどさー 俺、自転車のチェーンはめるのはムリだわ やり方わかんない ...