病室に祖母は一人、目に涙を貯めているそうだ。
足は土色になり、血圧は低下しているという。
言葉はない。
瞼はあかない。
頷く事もない。
耳は聞こえているのだろうか、
昨日僕も病室を訪れ、祖母の顔を見たが、涙はなかった。
今朝母から聞いた。
祖母が入院して2週間になる。
入院当初、夢を見ているのかだいぶうなされて、ベッドの柵に手を打ち付けて暴れていた。
まだ口から言葉を発していたけれど、唸る、叫ぶといった様で僕は正直、側で見ていられなかった。
母はその日以来、ほぼ毎日病院に足を運んでいる。
家が近いから。が適任とされた理由なのか。
娘、息子である兄弟は多いのだが、皆寄ってこない。様子を聞くだけだという。
その件も母を疲れさせていた。兄弟ってなんだろうね?と言ってた。
僕にもわからない。答えられない。
次第に祖母は昏睡状態になっていった。
僕も様子を見に行ったけれど、言葉も発さず、瞼も開かず、手を動かす事もできなくなった祖母がいた。
側で見ていたら、祖母は一番今誰に逢いたいんだろうと思った。
確実に出口のドアに向かっている道中に、
祖母は振り返って誰に逢いたいんだろうと思った。
言葉を発せられなくても
誰に今、手を添えていてもらいたいんだろう。
祖母は
あの時はごめん。
あの時はありがとう。
と彼らに伝えたいはずだ。
と勝手に僕は思っているだけで、全くなにも行動が出来ていない。
それでも、刻々と時間だけがすぎていくから、気持ちの整理がつかなくて、ここにかいている。
なんだか非常に情けない。
今日も病室には誰も来ない。
誰も涙を側で見る人もいない。
祖母の残された唯一の伝達方法は涙。
僕の父や母も同じ状態になった時、僕は兄弟と共に、その現実を直視出来るのだろうか、
わからない。
自分が死ぬときのことは後でいくらでも考えられる。 だから今は、せめて増田がお祖母さんの手を握ってやってくれ。
自分が死ぬときのことは後でいくらでも考えられる。 だから今は、せめて増田がお祖母さんの手を握ってやってくれ。