2008-02-23

ながい時を賭けて

時間に1本の列車が走る程度のローカル線で、経営も決して良くはない。

そんなとある地方鉄道の全駅で、乗車記念はがきというものが発売された。

はがきには、小さく「このはがきは、普段からこの鉄道をご利用していただいていることを証明するものです」と書かれていた。

このはがきは、観光客たちや鉄道好きらに、人気を集めた。

ある日、こんな発表がされた。

廃線することになりました」

「最終日は混雑解消のため、整理券を配ります。(乗車記念はがきをご利用の方や地元の方は、優先します)」

もちろん、葬式鉄((廃止が決まった鉄道路線や車両を乗る鉄道きのこと))たちも増え、この鉄道を訪れる人は、以前より増えた。

そして、最終日。

かなりの人が来ていた。もちろん、混雑している。

列車に定員があったため、はがきを持っていなかった。もしくは捨てた鉄道好きらは、ほとんどが乗れなかった。

抗議する人も居たため、こんなアナウンスがされた。

「皆様、本日は大変混雑し、ご迷惑おかけしております。当鉄道では、この路線を愛する方々がお別れの挨拶をできるように、乗車記念はがきをお持ちの方を優先しております。ご迷惑をおかけしますが、ご了承ください。」

もちろん、ほぼ全員がこの鉄道を愛しているという気持ちでいたため、さらに抗議が殺到。駅長がこういった。

「本当に愛しているのであれば、なぜ日常的に利用していただけないのでしょうか?本当に愛しているのであれば、なぜ乗車記念はがきをなくすようなことがあるのでしょうか?

この鉄道本日で最終日ですが、日本のどこかに、まだ廃線の危機を迎えている路線はたくさんあります。今来ていただいても、手遅れですから、皆様どうか他のローカル線に乗って、廃線しないようにしてください」

いかにも怒っているかのような口調で発せられたこの言葉は、のちに物議を醸し出したが、実は駅長の計算通りだった。

鉄道を愛してやまない駅長は、数年前から記念はがきという伏線を張り、他のローカル線を助けようと考えていた。

当然、そんなことうまくいかない。でも、心だけでも動かせれればいい。いずれ、多くの人が共感してくれるはずだから。もしかしたら、ひとつでも、ローカル線を救えるかもしれないから。駅長はそう考えていた―――――

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