林檎を買おうと、果物屋に行った。
ところが、並んでいる林檎はみんな、どれもこれも、虫に食われていた。
よく見てみると、虫の食った痕ではない。人間の歯形だ。
この林檎には一つ。あの林檎には二つ。あの林檎はあちこち囓られて、もう原型を留めていなかった。
いらっしゃい、どれでも一つ千二百円、お好きなのを選んでって、と、果物屋のおやじは言う。
囓りかけの林檎じゃなくて、まともなのは置いてないのか、と、私は聞いてみる。値段はともかく、そっちの方がもっと問題だ。
何をおっしゃいます、みんなまともな、おいしそうな林檎じゃありませんか、何か問題でもあるのですか、と、店主はむっとした表情で聞き返す。
おたくも良さそうなのがあったら、とりあえず囓ってみなさい、と笑って答える店主を、私は怪訝そうに見つめていた。
後ろから、若い男がやってきて、例のかじりかけの林檎を品定めし始めた。
自分と同い年くらいだが、自分とは比べものにならないくらいハンサムな男だった。
そして、例の「商品」の林檎を、片端から、手に取っては囓り、また元に戻し、他の林檎を手に取って囓り・・・を何度か繰り返した挙げ句、店を出て行ってしまった。
店主は、毎度ありがとう、と、にこにこ顔で彼を送り出した。
おや、おたくは、まだ決まらないの?
店主が私に声を掛けた。
決まるも何も、囓りかけの林檎なんて買う馬鹿がどこにいます、と、私はむっとして答えた。
ほほう、ひょっとしておたくも、最近世間を騒がせる「林檎泥棒」のお仲間ですかな、そんな事はお止めなさいな、と、店主は言う。
私には全く意味がわからなかったが、店主の話によると、こういう事だそうだ。
世の中には、どうしても新品の林檎でないと気が済まない、誰かが囓った林檎など食べたくないという、「潔癖性で変態な」連中が一部にいるという。
かつては果物屋でも新品の林檎が当たり前のように手に入ったが、今ではごらんのように、まず見かけない。
そこで、林檎農家の林檎畑に忍び込んで、収穫前の、囓られてないだけが取り柄の青い林檎を盗んでくる連中がその中から出てきて、問題になってるのだそうだ。
もちろん、いわゆる新品林檎「厨」の多くは、彼ら犯罪者共を白眼視している。
「ああいう連中と俺たちを一緒にされちゃかなわんね」と言いながら、昔の、果物屋に新品の林檎が並んでいた日の思い出話を語り合ったり、当時の事をエッセイやイラストや漫画で表現した同人誌を作ったりして活動しているのだが、「絵に描いた林檎」と馬鹿にされて、世間の評判はあまりよろしくないそうだ。
まったく、おたくみたいなのが、ちゃあんと林檎を買ってくれないおかげで、うちらは商売上がったりだ!
私が囓りかけの林檎を買う気がないのを見てか、突然、店主が逆ギレした。
商売上がったりなのは、商売人がこんな態度だからだろう、と私は思う。
私が反論の言葉を口にしようとしたその瞬間、遠くで時計のベルが鳴った。
気が付くと、私はベッドの上にいた。
朝の支度を済ませながらも、あの夢は何だったのだろうと考えてみる。
駅へ向かう道の途中に、果物屋があった。
囓った痕ひとつないピカピカの林檎が、山盛りになっていた。
私は怪訝そうにそれを見つめながら、思わずそのひとつを手に取ろうとした。
あっ、この林檎は、買う前に囓ってはいけなかったのだ。
ふと我に返ると、そんな行動をしそうになった自分が急に恥ずかしくなってきた。
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://anond.hatelabo.jp/20070622090947
2007年06月24日 tomo-moon ふーやれやれ, これはひどい, バカ コレって夢にかこつけて女を馬鹿にしてるとしか言いようがないんだけど。本人はいいこと言った気にでもなってんだろうな、あー醜い。誰も突っ込まないのが不思議。女はモノでも食いもんでもありません
誰も突っ込んでくれないのではと冷や冷やしてたが、やっと突っ込んでくれる人が出た。「モテ陣営だろうが非モテ陣営だろうが、女をモノのように扱ってる男が少なからずいるのは一緒」という皮肉をこっそり埋め込んで書いてみたんだけど、それを見事掘り起こしたtomo-moonさん、鋭い。
あと、ブクマで褒めてくれた人には悪いけど、私の今回の文章は文章を書くお手本にはあまりならないように思う。その一つとして「怪訝そう」が何度も繰り返されてるのが、後で読み返して気になったし。
あっ、この林檎は、買う前に囓ってはいけなかったのだ。 おもしろい。またへんな夢見てね
http://anond.hatelabo.jp/20070622150228 林檎かじり放題の果物屋 http://anond.hatelabo.jp/20070622090947 の 新品の林檎=処女 金を出して買う=結婚 買う前に囓る=婚前交渉 新品林檎厨=処女厨 林檎泥...
ブサ女ってって話が盛り上がるんだけど、「女は男を顔で判断してるムキー!と主張する自称ブサイクどもへ」というタイトルに愛を感じた。諦めちゃいかんの?とかいうけど、女性にと...
増田さん忙しくなっちゃった? お疲れ様。