2006-12-13

The calm rain which is brought inside

初めて彼女を知ったのは雨の日だった。

酷く朽ちた椅子が雨に打たれ夜の街頭の切れ端の中、刻まれた皺の数を数える老樹の様に、

そっとそこに存在していた。体は今にもコケを生やしそうな程に腐っていて、座ろうなんて少しも思わないけれど、

もし誰かが座ろうものなら翌朝には、土に帰っているんじゃないのかなっていう程に脆そうで。

毎日毎日変わることなく、何気なしにその道を通り彼女を感じていた。

経緯なんてチープなもので理由もあって無いようなもの。

けれど私の時間の共有できる部分を霞めたものを感じていたかったのは本当だったと思う。

擬人化という言葉が適切かどうか私には分らないけれど、いつしか彼女という固有名詞が自分の中で確立していった。

誰が捨てたのかも分らない。

見れば雨風に当てられるようになったのがここ最近の話ではないように感じた。

ある夜は空へ解かれた星空を眺め、ある夜は野良猫や野良犬の雨宿りスポットになっていたのかもしれない。

そしてある夜は私の様な人間の相手をして。

けれど何処かの物語の様に「おはよう」「こんばんは」なんて言葉彼女に対して私の中に産まれてくることは無かった。

誰かが何処かへ運ぶ訳でもなく、ただソコに存在したという記憶

彼女のことをここを通るどれだけの人が知っているだろうなんて考えるのは馬鹿馬鹿しいのかもしれないけれど。

 

 「変わらないものなんて何も無いんだよ」

そう彼女は終わり際に私へと歌っているように感じた。

賛美歌のように雨が彼女の体を撫でる中、指先で彼女の足へと触れてみた。

冷たくて何所か暖かい感触が体へと伝う。その途端に崩れ落ちるように目の前に彼女の体が横たわり雨粒を舞い上げた。

始めてあった時と同じように澄んだ空気と傘を撫でる優しい雨音の中に生を終えたんだと知った。

心の温もりで癒すように眠りについた彼女の体を抱き上げ、彼女欠片をハンカチへと包み込んだ。

 目蓋を閉じる。

黒髪を肩まで流し、黒いドレスを着た女性が一人、胸元に鮮やかな赤い花を抱え、

場違いな程に異質な空間のなか傘も差さず、穏やかに微笑んでいた。

壊れたオルゴールから流れる途切れ途切れな音階の様に雨音が、白い息と共に声を拾い上げる。

 「はじめから理解ってたよ...

      でも......もうさようなら......」

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