ブコメにフォーマットに沿ってほしいという要望があったので、文意を変えないようにフォーマットに合わせてました。また、ですます調に変えました。最初のバージョンも末尾に残しておきます(10/11 12:39)。
https://anond.hatelabo.jp/20181010122823の流れに乗って、心理学について書いてみます。
心理学は大きく分けて以下の2つに大別されます。
これから書くことは概ね、すべての心理学に当てはまると思いますが、臨床心理学はやや特殊なので割愛します。
また、私見に満ちている文章なので心理学者からも異論反論あると思います。なお、筆者は一応、基礎系心理学の博士号を持っています。
心理学は日本語論文も英語論文も書きますが,結論から述べると、論文については概ね以下のような扱いです。
査読付き英語論文>>>>査読付日本語論文>>査読なし日本語論文(いわゆる紀要;査読有り紀要も含む)
さらに、査読付き英語論文においても以下のような差があると思います。
APA系や伝統的な雑誌(JPSPとかJEPとか) >それ以外のIF2以上の雑誌 > IF1以上の雑誌 >= オープンアクセス誌(FrontiersとかPlosOneとか)>> 怪しい雑誌(Predatory Journal疑惑があるもの)
基本的には査読付英語論文がもっとも価値があり,ついで、査読付の日本語論文となり、査読なし日本語論文は一番扱いが低いです。
その背景として、心理学は(一応は)実証科学であるため、査読という第三者の視点から見て了解できる議論・データを示すことが求められているからだと思います。
特に理論的寄与と方法的妥当性については重視しており,それを専門家の第三者が審査することが大事だからでしょう。
そのため、査読なし日本語論文の多くは査読で落とされた論文であることが多いです。
実際に査読をする中でも、掲載できない論文(リジェクト判定)に対しては「掲載はできませんが、紀要などへの掲載の参考に以下のようにコメントいたします」という趣旨のコメントを書く場合があります。
したがって、査読なし日本語論文というのは(言い方は悪いが)質としては落ちるものが多く、石が多い玉石混交だと言えます。
紀要論文を卒論の参考にして行い、元論文がイマイチなので色々な面で苦労するというのはよくある悲劇の1つです。
また、日本語論文と英語論文の差についてですが、心理学は元々のはじまりがドイツであり欧米諸国で発展した学問です。
そのため、重要な理論の大半は海外の研究者によって提唱されています。したがって、日本語論文を書く場合でも半分以上は英語論文を引用して書かれることとなります。
また、規模としては海外の方が大きいので英語論文にすれば海外の心理学者にも知見が伝わるため、心理学全体への貢献度も高いと判断されます。
そして、英語論文で書く場合には引用してる研究者(場合によっては理論の提唱者)が査読をする場合もあるため、論文の質が高くなければ掲載に至らない可能性もあります(レベルが高い雑誌に限る)。
英語論文でも雑誌のカラーがあり、一般誌と専門誌に分かれています。一般誌は心理学全般について載せる雑誌でジャンル不問です。
専門誌は特定の分野(認知心理学メインなど)や特定のテーマ(学習メイン、感情メインなど)について載せる雑誌です。
一般誌の方が広い読者層を対象としているため、多くの心理学者が読む価値のあるインパクトのある論文が載る傾向にあります。
専門誌は専門誌で、その分野に関する深い議論や分野に特化した重要な知見が載る傾向にあります。IFは前者の方が高いです。
ちなみに、意外かもしれませんが、心理学でもNatureやScienceに論文が掲載されることもあります。非常に難しいため、普通は出そうとも考えませんが…。
IFについては2を越えれば十分に良い雑誌であり、1を越えていれば問題はないと判断されます。
0.5以下になってくると後述する点も関連しますが大丈夫かな?と思います。
まとめると、怪しい査読付英語論文よりも査読付日本語論文の方がよいという印象です。
このように、英語論文は日本語論文よりも重きを置かれていますが、英語論文に限っては最近はオープンアクセス誌とPredatory Journalが問題となっています。
オープンアクセス誌というのは、お金を払って論文を載せてもらう代わりに全世界に無料で公開されるという雑誌です(普通の雑誌は買わないと読めない)。
さらに、大抵のオープンアクセス誌はオンラインだけの雑誌です。そうなると、ほぼタダで論文をいくらでも掲載できるわけなので、掲載料稼ぎのために微妙な論文でも載せようとするというのは想像できるでしょう。
もちろん、何でもいいからと載せると雑誌の質が問われるのでそんなことはないと思います。ただ、最近は日本人はかなりオープンアクセス誌に載せる人がかなり多いです。
他の人はどうかはわからないが最初は自分の憧れの雑誌やいい雑誌に論文を投稿するのが多いはずなので、雑誌では掲載不可だった論文がオープンアクセス誌に載ることなりやすいはずです。その結果、玉石混交状態になっています。
元々、オープンアクセス誌は「方法などに問題がなければ掲載して、あとは読者判断に任せる」というスタンスなので、オープンアクセス誌の趣旨としては間違っていないと思います。
ただ、オープンアクセス誌への掲載が目的化しているのが問題です(その背景には英語論文>日本語論文という価値観がある)。
さらに、もっと深刻な問題なのはオープンアクセス誌の中でもマイナーなものにはPredatory Journalという詐欺雑誌が含まれていることです。
これはまさに掲載料を得るためだけにまともに査読をしないで掲載を決定するような雑誌です。Predatory JournalにはIFがついていないことが多い(ついていてもかなり低い)ので、あえてここに出そうという人は普通はいません。
ではなぜ日本人の論文がこのような雑誌に掲載されるのでしょうか?それは博士論文提出の要件に英語論文を求めている大学があるためであす。
どこでもいいので英語論文を載せたい人と掲載料が取れれば何でも載せたいPredatory JournalのWin-Winな関係のできあがりというわけです。
いまはまだ大きな問題にはなっていませんが、将来的にはPredatory Journalの情報が共有されていき大きな問題となるでしょう。憶測ですが、現在のPIの中に論文をPredatory Journalに載せてしまっていて他者を批判できない人がいるからかもしれません。
この問題は心理学に限らず、科学全体の問題として最近は注目されているので知ってる人も多いかもしれません。
個人的にも、学振目当てや博士号目当てとして知り合いの院生とかがクロ疑惑のある雑誌に掲載しているのをたまに見ると残念な気持ちになります。
一方で学振や学位に審査においてフェアでないのも良くないなと思うし、長い目で見ればこのような雑誌への掲載のしっぺ返しがくると思います。
実は心理学は文学部に属していることが多く、昔は人文系のように博士号を取らずに就職するというのが当たり前で、博士号というは一生の仕事の集大成という形でした。
その一方で、近年は心理学が文学部以外(情報系など)にも属することが増え、分野全体として博士号を持つことが研究者の第一歩として必須になりつつあります。
そのため、最短ではDに入って3年で(かかっても5年で)博士号を取ることが一般的になってきています。
非常勤(アルバイトですね)をするためにも博士号が求められることも増えてきています。この流れのため、前述したPredatory Journalやオープンアクセス誌の問題が出てきているわけではありますが・・・。
「はじめに」のところで臨床心理学は特殊と書きましたが、臨床心理学は精神分析に代表されるような派閥(力動論)と認知行動療法に代表されるような派閥があって、両者で考え方がかなり違います。ちなみに河合隼雄は分けるとすれば前者の方ですね。
筆者は臨床心理学の人間ではないので誰かに補足してほしいのですが、後者の認知行動療法系の人は査読付論文を重視していると思います。
臨床心理学では事例研究といって、1クライエント(精神的に不健康な人)の回復過程をまとめる論文が書かれる傾向にあるのですが、この事例研究の立ち位置が門外漢にはわからないのです。
個人的には、心理学においては客観的なエビデンスを蓄積が重要だと考えているので、事例研究には物語以上の価値はないのではと思いますが・・・。
ご存じの方も多いように心理学(というか社会科学全般?)に再現性問題がホットトピックになっています。社会心理学は3割しか再現できなかったという話もあります。
3割というのは、コイントスで裏がでる確率よりも悪いということですね(割合と確率を一緒にするなと怒られそうですが)。方法が厳密な知覚心理学,学習心理学,認知心理学などの実験系はもっと再現性は高いです。
社会心理学が足を引っ張っているのに、心理学全体の問題として話が大きくなっているのはなんだかぁという気もしています。
最近も社会心理学で人の目(イラストでも可)があると向社会行動(募金など)が促進されるという研究には再現性がないと原著者が認めて話題になりました(認めたことは良いことだと思います)。
再現性問題については心理学者で危機感を持っている人もいますが、知覚や認知という実験系の人はあまり気にしていません。気にしてないというよりは、方法が堅いので(社会心理ほど)現状はそこまで問題にならないからでしょう。
https://anond.hatelabo.jp/20181010122823の流れに乗って、先日心理学についても書いたので少し補足して再投稿してみる。
最初に断っておくと私見に満ちている文章なので心理学者からも異論反論あると思う。最近、社会学での査読論文の扱いが話題になってるが、社会科学という同じ枠組みで近接領域の心理学についての事情を書いてみる。ただ、心理学といっても様々な下位領域があって、特に臨床心理学は独自文化があるので、主に基礎系と呼ばれる心理学について書く。基礎系に入るのは、認知心理学、社会心理学、学習心理学など。なお、筆者は一応、基礎系心理学の博士号を持っている。
結論から述べると、論文については概ね以下のような扱いだと思う。
査読付き英語論文>>>>査読付日本語論文>>査読なし日本語論文(いわゆる紀要;査読有り紀要も含む)
さらに、査読付き英語論文においても以下のような差があると思う。
APA系や伝統的な雑誌(JPSPとかJEPとか) >それ以外のIF2以上の雑誌 > IF1以上の雑誌 >= オープンアクセス誌(FrontiersとかPlosOneとか)>> 怪しい雑誌(Predatory Journal疑惑があるもの)
注:心理学ではIFが2以上あれば2流以上の雑誌(それらの雑誌の掲載は他人に貶められることはまずなく褒められることが多い)。
○説明
まずは、最初に書いた日本語論文における査読の有無の差について書く。基本的には査読付英語論文がもっとも価値がある。ついで、査読付の日本語論文となり、査読なし日本語論文は一番扱いが低い。その背景として、心理学は(一応は)実証科学であるため、査読という第三者の視点から見て了解できる議論・データを示すことが求められているからだと思う。そのため、査読なし日本語論文の多くは査読で落とされた論文であることが多い。実際に査読をする中でも、掲載できない論文(リジェクト判定)に対しては「掲載はできませんが、紀要などへの掲載の参考に以下のようにコメントいたします」という趣旨のコメントを書く場合がある。したがって、査読なし日本語論文というのは(言い方は悪いが)質としては落ちるものが多く、石が多い玉石混交だと言える。紀要論文を卒論の参考にして元がイマイチなので色々な面で苦労するというのはよくある悲劇の1つだ。
また、日本語論文と英語論文の差についてだが、心理学は元々のはじまりがドイツであり欧米諸国で発展した学問である。そのため、重要な理論の大半は海外の研究者によって提唱されている。したがって、日本語論文を書く場合でも半分以上は英語論文を引用して書かれることとなる。また、規模としては海外の方が大きいので英語論文にすれば海外の心理学者にも知見が伝わるため、心理学全体への貢献度も高いと判断される。そして、英語論文で書く場合には引用してる研究者(場合によっては理論の提唱者)が査読をする場合もあるため、論文の質が高くなければ掲載に至らない可能性もある(レベルが高い雑誌に限る)。
英語論文でも雑誌のカラーがあり、一般誌と専門誌に分かれている。一般誌は心理学全般について載せる雑誌でジャンル不問である。専門誌は特定の分野(認知心理学メインなど)や特定のテーマ(学習メイン、感情メインなど)について載せる雑誌である。一般誌の方が広い読者層を対象としているため、多くの心理学者が読む価値のあるインパクトのある論文が載る傾向にある。専門誌は専門誌で、その分野に関する深い議論や分野に特化した重要な知見が載る傾向にある。IFは前者の方が高い。ちなみに、意外かもしれないが、心理学でもNatureやScienceに論文が掲載されることもある。非常に難しいため、普通は出そうとも考えないが…。
このように、英語論文は日本語論文よりも重きを置かれているのだが、英語論文に限っては最近はオープンアクセス誌とPredatory Journalが問題となっている。オープンアクセス誌というのは、お金を払って論文を載せてもらう代わりに全世界に無料で公開されるという雑誌だ(普通の雑誌は買わないと読めない)。さらに、大抵のオープンアクセス誌はオンラインだけの雑誌である。そうなると、ほぼタダで論文をいくらでも掲載できるわけなので、掲載料稼ぎのために微妙な論文でも載せようとするというのは想像できるだろう。もちろん、何でもいいからと載せると雑誌の質が問われるのでそんなことはないと思う。ただ、最近は日本人はかなりオープンアクセス誌に載せる人がかなり多い。他の人はどうかはわからないが最初は自分の憧れの雑誌やいい雑誌に論文を投稿するのが多いはずなので、雑誌では掲載不可だった論文がオープンアクセス誌に載ることなりやすい。結果として玉石混交状態になっている。元々、オープンアクセス誌は「方法などに問題がなければ掲載して、あとは読者判断に任せる」というスタンスなので、オープンアクセス誌の趣旨としては間違っていない。ただ、オープンアクセス誌への掲載が目的化しているのが問題だろう(その背景には英語論文>日本語論文という価値観がある)。
さらに、もっと深刻な問題なのはオープンアクセス誌の中でもマイナーなものにはPredatory Journalという詐欺雑誌が含まれていることだ。これはまさに掲載料を得るためだけにまともに査読をしないで掲載を決定するような雑誌である。Predatory JournalにはIFがついていないことが多い(ついていてもかなり低い)ので、あえてここに出そうという人は普通はいない。ではなぜ日本語論文がこのような雑誌に掲載されるのだろうか?それは博士論文提出の要件に英語論文を求めている大学があるためである。どこでもいいので英語論文を載せたい人と掲載料が取れれば何でも載せたいPredatory JournalのWin-Winな関係のできあがりである。いまはまだ大きな問題にはなっていないが、将来的にはPredatory Journalの情報が共有されていき大きな問題となるだろう(憶測だが、現在のPIの中に論文をPredatory Journalに載せてしまっていて他者を批判できない人がいるからだろう)。この問題は心理学に限らず、科学全体の問題として最近は注目されているので知ってる人も多いかもしれない。個人的にも、学振目当てや博士号目当てとして知り合いの院生とかがクロ疑惑のある雑誌に掲載しているのをたまに見ると残念な気持ちになる。一方で学振や学位に審査においてフェアでないのも良くないなと思うし、長い目で見ればこのような雑誌への掲載のしっぺ返しがくると思う。
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