私の母は創価学会の信者だ。それ自体にも言いたいところはあるが、母は母なりの確信を持って本尊に向かって日夜勤行だか題目だかをあげているらしい。それだけで母の気が済むのなら安いものだと思う。
しかし、許せないことがひとつだけある。それは、その勤行だか題目だかをあげている最中は声をかけても返事をしないという点だ。朝のおはようの挨拶すら無視される。母と私の折り合いは悪いので不愉快にはなりながらもそんなものかと思っていたが、私だけではなかった。父の出かける挨拶、「いってきます」の一言にすら返事をしなかったのだ。「いってらっしゃい」。そんな当たり前すぎるくらいに当たり前な一言すら言わなかったのだ。さすがにこらえかねて母に言った。「父さんにいってらっしゃいの一言すらかけられないの?」それも無視された。
当然私は不機嫌になりながら自室に入った。そしてしばらくしてから掃除機を持ってきた母が部屋に入ってきた。私の顔を見るなり、「そんな顔をしてるんだったら一緒にお題目上げようか?」と声をかけてきた。もう本当に腹が立った。
「家族を無視してあげる勤行に何のご利益があるんだ!そんなんで本当に幸せになれるとでも思ってるのか!?」
そう声を荒げると、母はこう言った。
「勤行じゃないもん。お題目だもん」
何も言えなくなった私に母は続けて言った。
「だいたいあんたが悪いんだ。あんたが私がお題目あげる前に起きてこないから」
そういって母は部屋から出て行った。
あまりのことに呆然としてしまったが、すぐに母を追いかけて廊下から叫んでしまった。
「そうやって話題そらして挨拶すら出来ないことの責任転嫁か!?」
その叫びへの返答はなかった。
似合いの親子というべきだな。