気が付いたら不思議な部屋に立っていた。
目の前には扉が二つ。
にこやかな笑みを湛える爽やかな青年と、体調の優れない中年女性がドアノブを握っていた。
女の人の窪んだ目が気味悪かった僕は、青年に近寄って声をかけた。
「ここはどこですか?」
「ようこそ。ここは裕福な扉です。どうぞ、お通りください」
そう言って、青年は扉を開き僕をくぐらせた。
目の前に広がる、ついさっき見たばかりの光景。
わけの分からない僕は、再び青年に声をかける。
「ここはどこですか?」
「ようこそ。ここは裕福な扉です。どうぞ、お通りください」
そう言って、青年は扉を開き再び僕をくぐらせた。
目の前にはついさっき通り抜けたばかりの光景が広がっていた。
三度同じことが続いた僕は今度こそ事情を確かめようと勇んで青年に近づいた。
「どうしてあの女性は体調が優れないのですか?」
「ようこそ。ここは裕福な扉です。彼女は貧しい扉の担当なので、あのような姿になっているのです」
「助けてあげないのですか?」
「私は扉を開けることだけが仕事ですので」
苦笑して、青年はまた僕を扉の奥へと向かわせた。
四度目に辿り着いた部屋には、少し変化があった。
ずっと立っていたはずの女性が、膝を折っていたのだ。
姿を気の毒に思いながらも、僕は青年に近づいていく。
「辛そうですね、彼女」
「ようこそ。ここは裕福な扉です。仰るとおりですね。可哀想です」
会話をして、再び扉をくぐった。
次の部屋で、女性は床にぐったりと倒れていた。
手だけが執念深くドアノブを握っているのが印象的だった。
向けられる、鋭い眼光が怖かった。
僕は青年に声をかける。
「彼女、怖いですね」
「ようこそ。ここは裕福な扉です。貧しいと心まで荒んできますからね。仕方ないことですよ」
そうして僕は、再び背中を押されて扉をくぐった。
彼女は、徐々に衰弱しているようだった。
扉をくぐるごとに身体は痩せ細り、嫌な臭いを発するようになってきていた。
気の毒に思いながらも、僕はずっと青年がノブを握る扉へと足を向ける。
とうとう女性の手がノブからも離れてしまったのを見たとき、初めて声を荒げた。
「どうして彼女を助けてあげないのですか。あなたはずっと同じ部屋にいるのでしょう?」
問い掛けに、青年は一層浮かべた笑みを深くさせて返事を述べた。
「ようこそ。ここは裕福な扉です。あなたはお優しい人ですね。思うのならば、声をかけてあげたらよかったのに」
言葉に、僕はすっと腹の底が冷えていくのを感じた。
「あなたは私がずっと同じ部屋にいたと言いましたよね。でも、それはあなたにしたって同じだったのではありませんか? ずっと同じ部屋を通り抜けてきていた。なのに、どうして私にばかり近づいてきたんです」
それは、と反論を試みた僕を片手で制して、青年は穏やかな笑みを浮かべる。
「いいんですよ。仕方のないことなのです。何もあなたが悪いことをしたわけではないのですから。哀れみを覚えるのは自由です。 助けてあげてと声を大きくするのも自由です。あなたは何も悪くありません」
口にして、青年はゆっくりとドアノブを捻った。広がる朗らかな花園に僕の心は一転、好奇心を押さえきれなくなってしまう。
「どうぞお進みください。ここは裕福な扉なのです。あなたにはそれを享受するだけの価値がある」
背中を押されて僕は扉をくぐった。
胸いっぱいに芳しい香りを溜め込んで周りを見渡す。
荒廃した大地の中、僕が立つ周辺だけが、生き生きとした緑に覆われていた。
色々と考えさせられるところが似ている。 豊かさとは、幸福とは何だろう? http://anond.hatelabo.jp/20090711032230
それを知るために、まずは「幸福の科学」へ入りませんか?
なぜか、これを思い出したな http://www.amazon.co.jp/%E8%B2%A7%E5%9B%B0%E3%81%AE%E3%81%AA%E3%81%84%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8B-%E3%83%A0%E3%83%8F%E3%83%9E%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%A6%E3%83%8C%E3%82%B9/dp/415208944X/ref=sr_1...
なんでこんなに面白い読み物なのに、お金とらないのかなぁ。
まず、会話以外の文を、改行以前で終わるようにしましょう。 お手本 http://anond.hatelabo.jp/20090711032230 あとは狐よるクマの方がいいかな。
ここ数日で五編の掌編を書いてみたわけだけれど。 思ったことと、お礼なんかを列ねてみようと思う。 まずは第一作。「裕福な扉」 http://anond.hatelabo.jp/20090711032230 題目なんか考えずに...