2009-05-21

最寄駅まで自転車通勤している。

一時期、月に1度以上、自転車ベル、または前カゴ、もしくはその両方が壊されていた。

破損した後の状態を見ると、酷く倒れて壊されたみたいだった。

実際によく倒れていた。

特に強風が何ヶ月も吹き荒れていた訳もなく、思い当たることといえば片足スタンド自転車がやけに多い事くらい。

だだっぴろい駐輪場は足場が良いわけでもない。

片足スタンドなんて不安定な商品を売るなよ買うなよ、と思っていた。

ある日、所用でまだ明るい平日に駐輪場に戻る事があった。

その時、理由が判明した。

自分は定時に帰る事などなく、帰りに駐輪場に行くのは学生などが帰った後のガラガラの状態だった。

ところが、日中の駐輪場ハンドルハンドルがびっしり重なったギチギチ状態に詰まっていた。

ドミノ倒しにならないよう、何台もの自転車を少しづつ動かして自分自転車を救出。

何分も格闘した後、駐輪場を見渡せば、ギチギチに詰められた自転車の向こうに、ひろびろと何もないスペースが広がっていた。

実は駐輪場にはシルバーのじいさんが働いている。

じいさんの前に働いていたばあさんは、母親の知り合いで、全然仕事をしていない(自転車の整理や駐輪場掃除)事を市だか区だかにチクられて、クビになったらしい。

ばあさんが自転車整理をしていたのを見たことはないが、不自由もしていなかったから、他に理由があるんじゃないかと思ってた。(ばあさんはやたらとおしゃべりだった)

だが、いくらなんでもこれは無茶苦茶だ。

学生や、短気な人間だったら、隣の自転車をなぎたおして行っても仕方がない気がした。

俺は、次の日から、駐輪場の奥に止めるようにしはじめた。

何しろ田舎だ。土地だけは広い。

端まで自転車が止まっている事など、一度も見た事がない。

ところが、しばらく後、駐輪場の端にいるじいさんが近づいてきて声を掛けてきた。

「アンタ、もっと詰めて止めてくれんか。

そんな場所に止められちゃ、後で移動するのが大変だろう」

はぁ?と思いつつ俺は返事をした。

「いえ、移動してもらわなくても結構です。このままで」

「何言っとるんだ。人様の事を考えろ!

詰めてとめなけりゃ、他の人の迷惑になるだろうが」

仕方なく俺はガラガラ駐輪場を指差した。

「まだあれだけ空いています。

これまで一杯になるような事がありましたか?」

じいさんは不機嫌な表情で黙り込んだ。

「ここのお仕事は、朝の数時間ですよね?

(前のばあさんに聞いて知ってた)

昼間に一度見に来てください。

半分以上、空いてますから」

じいさんの顔が赤くなった。

「これが仕事だ。

何か悪いのか」

「正直悪いです。

あまり無駄に詰められると、出せなくなって、自転車が壊されるんです。

もう毎月修理してます。

理由が分からなくて、苦情を言おうか悩んでたんです。」

そういうと、見た目にもはっきり分かるほど、じいさんの表情がぎょっとした。

酷く慌てた様子できびすを返すと、駐輪場の向こうへ行ってしまった。

その後、一度だけ、自転車サドルが切り刻まれた。

これは今までに一度もない事だった。

けれど、それ以来、ベルも、前カゴも、無事だ。

じいさんは無茶な自転車整理を止めてくれたみたいだった。

気のせいかもしれないが、駐輪場の端にいるじいさんが所在なさげに見えた。

俺がやる気を殺いだのかもしれないし、チクられて辞めさせられたばあさんの二の舞を恐れていたのかもしれない。

少し悪い気がしたが、毎月のアホみたいな出費がなくなって、ホっとしている。

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