米国でサブプライムローン問題が表面化し、原材料価格の高騰が進展した2007年7月から2008年3月までの期間、名目為替レートの円高とインフレが進むという状態が生じた。この事実を持って、「円高インフレ」が進んだ際の状況について心配する論者も居たのだが、「円高」と「インフレ」の同時的な進展って何だろうか。
為替レートと言うと、円とドルの二国間レートがよく用いられるが、経済学的に意味があるのは円と貿易相手国の通貨との為替レート(名目実効レート)であり、さらに我が国と貿易相手国の物価の変化を調整した実質実効レートだ。
名目実効レートの伸びは実質実効レートの伸びに(貿易相手国の物価水準/日本の物価水準)の変化を加えた値となるので、名目実効レートの変化率(%)に対する実質実効レートの寄与度(%)、我が国と貿易相手国の相対物価の寄与度(%)といった形に分解できる。これで円高((円高の場合、円ドルレートとは異なり実効レートの値は増加する))となった時期の実質実効レートの寄与度と我が国と貿易相手国の相対物価の寄与度がどうなっているかを調べてみた。
確認してみると、以下のことがわかる。
・2007年7月から2008年3月の円高が進んだ時期においては、相対物価の寄与が実質実効レートの寄与を大きく上回っている。
・寄与率で見ると、名目実効レートの変化の74%が相対物価の上昇で説明でき、実質実効レートの変動の寄与は小さく、大まかに言えば(金融政策の変更が無いため)殆ど変化していない。
・相対物価の上昇は貿易相手国の物価の方が我が国の物価よりも上昇していることを示している。つまり、我が国はマイルドな物価上昇が生じていたが、貿易相手国はそれ以上の物価上昇が生じていたことを意味している。
では、ここから何が言えるのだろうか。一つは「円高インフレ」の正体は「我が国もマイルドな物価上昇が生じていたが、他国が我が国以上に物価上昇をしていたために生じていた」ということだ。我が国は金融緩和も引締めもしていないのになぜデフレ気味?という疑問があるかもしれないが、貿易相手国の物価動向よりも軽微なインフレだったから、為替レートは円高にふれていたわけ。為替レートは貿易相手国との関係で定まるから別に特別な話ではない。
3月以降の状況は実効為替レートの算出に用いられている企業物価指数が貿易相手国の物価の伸びよりも上昇しているので、円安にふれている訳だけど、我が国の昨今の為替動向を判断する際に貿易相手国と我が国との物価上昇の相対的関係がどうなっているかを見ておくと判断しやすいかな。
元エントリにブックマークされた方がいらっしゃるのでサービスではないですが(多謝、日本の名目実効レートの要因分解と同じ方法で米国について行ってみると面白いことがわかる。...