2008-11-15

これは一人の男の子の話です。

これは一人の男の子の話です。

生来心臓に欠陥があり、幼い頃に大手術をし、何種類もの薬を飲みながら暮らしていました。

ただ、彼には軽度の知的障害があり、なぜ自分が薬を飲んでいるのかはよくわかっていませんでした。

彼が小学生になると両親が事故で亡くなり、叔父夫婦に引き取られました。

叔父の家にはあまり居場所がなかったので、自然学校の友達と遊んでばかりいるようになりました。

ただ、学校の授業はほとんどわかりませんでした。

中学生になると、まったく授業が分からなくなり、学校に行かず、友達と遊んでばかりいるようになりました。

高校生になっても同じでした。

友達は彼にお店でお金を払わずに品物を持ってくる遊びを教えてくれました。

ただ、彼はそれが本当に悪いことだと気づいたのは、警察に捕まって、少年課の刑事さんに怒られた時でした。

彼は医療少年刑務所に入ることになりました。

心臓のことがあったので、普通刑務所ではだめだったのです。

彼は刑務所にいる間に今までの自分は良くなかったんだなぁと反省しました。

だからきちんとやり直したいと先生に話をして、刑期が終わると仕事を探すことになりました。

ただ、叔父夫婦のところには行けなかったので、同じような男の子がいる施設の寮に入りました。

寮に入ると、職員の人と一緒に仕事を探しました。

近くのスーパーで働くことになりました。

病院も近くのところに転院しました。

ただ、相変わらずなんで薬をのまなくてはいけないのかはよくわかりませんでした。

施設には小さな子もたくさんいて、みんなからおにいちゃんとはじめて呼ばれるようになりました。

彼に命令しない友達ができました。

仕事に行くとお客に「がんばってね」と言ってもらえるようになりました。

それから、恋をしました。

病院看護婦さんでした。

はじめてのお給料ハンカチを買って、手紙を書きました。

彼女に渡すと、「ありがとう」と言ってくれました。

ただ、薬をちゃんと飲んでないと検査でわかってしまうので、よく怒られました。

彼女に四回目のプレゼントをする時に、彼は長い作文を書きました。

それは彼が今までどんな人生を歩んできたか、ということでした。

そしてこれからは仕事をしながらお金をためて、勉強をして、自分の手術をしてくれたような医者になるつもりだと書きました。

ただ、その手紙彼女に渡すことはできませんでした。

彼はその手紙を書いて直に、寮の自分の部屋で冷たくなって発見されました。

死因は薬の大量摂取によるショック死でした。

周りの人は最初自殺かと思いましたが、彼の作文がすぐにみつかり、

押入れに飲み忘れていた薬が大量に見つかると、彼が通院直前に、検査で飲んでいないことがわかるといけないと思って、慌てて大量に飲んだのではないかと考えられるようになりました。





ただ、彼は彼女に「ちゃんと飲めたね」と言って欲しかっただけなのではないかと。





彼がそうして短い人生を終えてもう十年になります。

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