カテゴリー 「フィクション」 RSS

2007-01-29

[]メールの話(3/3)

続き

ぼくは人間関係においての決定的瞬間、いわゆるフラグというのが本当にあるのかどうか知らない。けれど、もしあるとするならこれがそうだったのだろうとも思う。そのときまで、ぼくと彼女はお互い微妙な距離を保っていた。ぼくはいまいち踏み込めずにいた。

そのときぼくは、離れたところに住んでいる友達のところに泊まりで遊びに行っていた。そのことを彼女ショートメッセージで送って、メッセージが何往復かした後、そのメッセージは届いた。「一緒に旅行、行きたいね」。ぼくは戸惑った。なんて返せばいいのだろう。数年後のぼく、つまり今のぼくは、「そうだね」くらいで適当にすませればいいのに、と思う。なんなら「じゃあ、どこに行こうか?」なんて付け加えてもいい。

でも当時のぼくは、そんなメッセージは送れなかった。その挙句、返さないという最悪の選択肢の次に悪いんじゃないだろうかという返事を出した。何冗談言ってるの?とそのままではないけれど、それに類するような文章。せめて、「本気にしちゃうよ」くらいつければいいのに。ゲームオーバー。バッドエンド。

その後、急速に付き合いが薄くなった。かどうかは覚えていない。けれど、そのときから何回目かの同期の飲み会で、彼女が他の同期と付き合い始めたことを知った。さらにその後、彼女の姓が変わった。

一通のメールで、そこまで思い出して(さすがに最後の段落は忘れるわけはないけれど、その前のメッセージのやり取りは結構本気で忘れかけていた)、忘れるべくして忘れたんだろうなと思った。そしてふと、ぼくは最初に発見したメールになんて返したんだろうと思った。もちろん、送信ボックスを覗けば、ぼくがなんて返したのかは(あるいは、何も返さなかったのかは)分かる。けれど、それを探してはいない。

最後に。「ぼく」と「彼女」は実在する。けれど、この話はフィクションだ。どこまでが本当で、どこまでが嘘かはもうぼくにもわからない。

[]メールの話(2/3)

続き

ぼくは彼女からの好意らしきものを感じていて、何となくそれを避けていたのだった。そういえば。ぼくはそれをすっかり忘れていて、「仲のよかった女の子」という枠でのみで記憶していた。いやまあ、それも間違いではないのだけれど。

あるいは。好意らしきものというのも後付で捏造された記憶なのかもしれない。でも、思い返すと、一緒に映画を観にいったり、一緒に出かけたり、飲み会のときはいつも二人で話していたり、そういえば携帯電話を持ち始めたきっかけも彼女だった。もしこれが友人から聞いた話であれば、「絶対お前に気があるって」位のことは言いそうだな。うん。

前にも書いたとおり、そのころの携帯電話には同じキャリア間でショートメッセージを送る機能しかなくて、それもオプションサービスで別途契約する必要があった。ぼくに携帯電話を持たせることに成功した彼女は、今度はこのショートメッセージサービスの開始を迫った。というのは大げさすぎるか。でも、かわいい女の子に「えー、○○君にメッセージ送れないの?」なんて言われて逆らえる男はほとんどいないんじゃないだろうか。もちろんぼくにも無理だ。

ぼくは昼ご飯を食べているその場で(彼女とはいつも一緒に昼ごはんを食べていた。もちろん、二人っきりではないけれど)電話をして、ショートメッセージを使えるようにした。彼女は「無理言ってごめんね」なんていってたけど、その割にはとても嬉しそうだった。そうして、ぼくたちは休みの日にもちょくちょくメッセージのやり取りをするようになった。

ぼくが長期出張に行ったのは、入社して半年のことだった。わざわざ出張に行くのだから忙しかったのだろうと思う。その頃のことはあまり覚えていない。彼女からの一通だけのメールはちょうどその頃の日付が入っている。彼女会社アドレスあてではなく、ショートメッセージでもなく、あえて個人のメールアドレスに宛ててメールを出したのか、ちょっと分かるような気もするのだけど、確かめるすべはない。

(続く)

2007-01-26

[]メールの話(1/2)

PCメールを整理していたら、ふと昔のメールが目に入って、懐かしいやら恥ずかしいやら、そういう感情を覚えた。

ぼくのPCには、社会人になってからのメールがすべて残っている。別に大事にとっていた訳ではないのだけれど、さいわい今まで失われることなくここまできた。ぼくが社会人になってすぐの頃は、携帯電話メール機能などなく、せいぜいがショートメッセージを送れる程度だった。だから個人的なメールPCから送っていた。今はもう、そういうメール携帯電話で送るようになっている。

懐かしいついでに、昔のメールを順に読んでいたら、読んだ覚えのないメールが出てきた。差出人は前の会社の同期の女の子で、そこそこ仲が良かった覚えがある。内容は他愛もないものなので、ここには書かないけれど、ぼくはほんの少し違和感を覚えた。このメールはここにあるべきものではない。お互い、同期なので会社メールアドレスは知っているし、その運用はあまり厳しくなかったので、みんな普通に社内の私信に使用していた。ぼくも彼女メールのやり取りをしていた記憶がある。

思えばちょうどその頃、ぼくは長期出張に行っていて、出張に行くときに個人的なアドレスを同期に送ったような気がする。だから、彼女プライベートアドレスを知っているのは問題ない。それでも、ここにあるべきではないという結論に変わりはない。出張先でも会社アドレス宛のメールは問題なく読める。

それで、当時を思い返していたら、いろいろなことを思い出した。なんてこった。人はこんなにも記憶を失えるものなのだろうか。

(続く)

 
ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん