床を這う。両手を使って、邪魔なものを振り払いながら、蛆虫のように進み続ける。目指す場所はもう目の前にまで近づいている。
拳を握った。辿り着いた廊下にへと繋がるスチール製のドアをドンドン叩いた。手のひらが痺れるほどに。感覚がなくなって、皮膚が破けてしまうほどに。叩いて叩いて叩き続けて、振り上げていた右手は冷たいスチールの表面をずり落ちていった。
ずっと鳴り響いていた震動が空気に伝わっていく。無限に広がる空間に飛び出した途端にかすれ薄れて、寒々しいほどの静寂があたりにすうっと忍び込んでくる。
もう動かなくなった時計にも、吊るしたまま埃を被った制服にも、並んだ本にも、散らばったたくさんの小物の中にも、静寂は青い波紋となってじんわりじんわり染み込んでいく。
全てに染み渡って、それぞれが波打って、より深い、海溝のような静けさをあたりに噴き出していく。
音もなく音もなく。徐々に徐々に、正確に、的確に。
カーテンからは力のない光がそっと射し込んできている。リノリウムの床に平べったい明かりを作ったまま、形を変えることもなくずっとへばりついている。
まるでもう二度と飛べなくなってしまった私をあざ笑うかのように。遥か上空から優しいぬくもりを投げかけ続けている。
右手を上げて、もう一度ドアを叩いた。
震動はむなしく響くだけで、届けたいあの人にも、聞いてほしくないあいつにも伝わることなく消えていった。
消えていって、一層辺りに波打つ静けさを深めただけだった。
息がかすむような、ぎゅっと膝を抱えて縮こまってしまいそうな、眠たくなってしまう無機質な静寂が私の精神までも蝕んでいく。
その細波が、折に触れて目頭に打ち寄せてくるので、ぽろぽろと涙が込み上げてきてしまう。
さびしいのはいやだ。心細いと潰れてしまいそうになる。もう誰もいないだなんて考えたくない。認めたくない。
私が無き者として扱われているだなんて信じたくない。
どん、どん、とドアを叩く。叩いて叩いて、もっともっとさびしくなるのに、やめるわけにはいかない。
どん。どん。どん。
誰かに届いて。
そう願い、涙を浮かべながら、何度も何度もドアを叩く。