2010-07-08

痴漢を阻止できなかった男の話

 今日帰宅電車の中で、痴漢現場に遭遇した。

 それに遭遇するのは自分は初めてだった。

 自分は、なにもできなかった。

 ただ、見ていただけだった。

 自分は26歳。男。

 ふだんは感情はほとんど上下しない。淡々日常を送っている。

 就職活動で失敗しても、失恋しても、心にダメージはほとんど残らない。

 そんな自分のなかで唯一、激しく心が動揺するのが、性犯罪の事件を見聞きしたときだ。

 痴漢の話を聞くたびに心の底から胸糞が悪くなり、そして必ず「その現場に俺がいたら、絶対に阻止してやるのに!」と憤っていた。

 俺は、車両の後ろの方から、その異変に気づいた。

 座席はほぼ乗客で埋まっているが、立つ乗客はあまりいない程度に、空いた車内だ。

 自分からみて、3つくらい前方の席だろうか。二人掛けの席のうち、窓側にはお姉さんが座っている。そして通路側には、生理的に気持ち悪い、中年のオッサンが座る。

 ただし――明らかに異常に――オッサンは、お姉さんの体のほうへと寄って体を密着させている。二人掛けの席のちょうど中間にオッサンの体がくるほど、女性のほうに体を密着させている。

 そして、妙に、オッサンの体が上下に揺れている。けっして電車の揺れではない。不自然に、体を上下に揺らしている。

 手元でなにが起こっているのか、後方から見ている俺には分からない。

 いったい何なのだ。

 だが後で確信することになるが、これは痴漢だった。

 俺はそれを見ているだけだった。

「あの密着の程度は、もしかしたら家族なのかも」

 いろいろな想像が頭をかけめぐった。

 だが、何もしなかった。

 本当は、俺が隣の通路に立てばよかったのだ。オッサンの手元でなにが行われているのかを確認するために、自分がすぐとなりの通路に立てば、よかったのだ。ほんとうに痴漢なのかどうか。そして、たった隣に立つだけで、もしかしたら痴漢行為に対する牽制になったのかもしれなかった。

 だが、何もしなかった。

 俺が何もしなかった理由は、大きな荷物を抱えていたからだ。だから、通路に移動するのは少し難しかった。――たったそれだけの理由! そんな些細な理由で、俺は目の前で行われる犯罪行為をみすみす見逃していた!

 その異常な光景に気づいていたのは、車内ではおそらく自分だけだった。つまりその時、痴漢の阻止に動けるのは自分しかいなかった。

 自分しかいなかったのに!

 そして、ふだん痴漢事件に憤っている俺がそこにいたのに。俺がいたのに、目の前の痴漢には何もできなかった!

 電車が駅につく。

 女性が早々に立ち上がって、降りる。オッサンはすっと体の位置をもとに戻し(つまり意図的に体を密着させていたことが判明)、お姉さんの後ろ姿をじいっと目で追っている。そして、俺も降りた。

 俺は電車が出発するまでの間、車内のオッサンの様子をみていた。

 俺は、驚愕する。

 オッサンは、おもむろに立ち上がったかと思うと、車内を見回して、――べつの若い女性のとなりに座りやがったのだ。

 ――次の獲物を確保、というわけか。

 まわりの乗客は、だれもその異変に気づいていないように見える。

 電車はまもなく、そのまま出発した。

 ホームに残される俺。

 ほかの乗客が出口へと向かう中、さっき降りたお姉さんはホームで立ち尽くしていた。そしてお姉さんは誰かに電話をかけ、小さな声で話をしていた……。

 俺だったら、止めれたのに。

 俺しかいなかったのに!

 何もできなかった。

 とても悔しい――悔しくて悔しくて、泣きそうだ。実際、泣いた。

 今までの人生のなかで、もっとも動揺している。今でも思い出すと、叫びだしそうになる。

 男なんて、みんな死ねばいいのに

 文字通りの意味で、一人の例外もなく、男は死ねばいいのに

  • > 男なんて、みんな死ねばいいのに。 文字通りの意味で、一人の例外もなく、男は死ねばいいのに。 << つ【言いだしっぺの法則】

  • http://anond.hatelabo.jp/20100708012324 元増田です。簡単にブコメにお返事したい。 まず、「男は死ねばいいのに」という文言に対する違和感のコメント。確かに、このエントリでは唐突に出て...

    • 俺はあのブコメ見て笑ったからあえては参加しなかったけど 飲み込んでいた別の角度のツッコミを入れるけどさ お前、男が26歳にもなって、 そんなことに対処しようとしても出来...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん