あるところに赤ずきんちゃんがいました。
学校に行くときも、ちょっと近所を散歩する時も、いつも赤いずきんをかぶっていたので、彼女を知る人たちはみんなそう呼んでいました。
もちろん、家の中でもお風呂の入る時と赤いずきんを洗濯している時以外はずっとその赤いずきんをかぶっていました。
「なんであんたはそんな赤いずきんをかぶってんのよ、みっともない。」
赤ずきんちゃんのお母さんは、彼女の頭を見るたびにグチグチ言いましたが、無理に止めさせようとはしませんでした。
「ママー! ずきんのここ、ほつれちゃったよ。縫って! お願い!」
「どれ? あー、そうねえ。ずっとかぶってるからよ。ほら、やってあげるから脱ぎなさい。お風呂沸いてるから入ってらっしゃいね。」
「うん! わかったー! よろしく!」
むしろお母さんは赤ずきんちゃんに協力的でした。
赤ずきんちゃんの赤いずきんの洗濯も修理も、全部お母さんがやってあげていました。予備の赤ずきんもたくさん作ってあげました。
赤ずきんちゃんの家にはお父さんがいませんでしたが、お母さんが赤ずきんちゃんをとてもかわいがっていたので、赤ずきんちゃんはとても素直な女の子に育ちました。
「この間は黄色いワンピースだったわよねぇ……。赤と黄色で、私やめなさいって言ったのに、あなたったら聞かなかったじゃない。」
「それでケンジに笑われたのよ。だから、今度はお母さんの意見を聞こうと思ったの!」
「赤いずきんのせいで、何着ても台無しなのよねぇ。この白いブラウスはどう? これに赤いスカートを合わせて……。」
「それじゃいつもと変わらないよー。それより、ねえ、お母さんのあの下着借りてもいい?」
「何言っての、この子は。ダメ。まだ早いわよ!」
「だって、もしもってこともあるじゃん。」
「ダメ! バカなこと言わないでよ。」
「わかったって。冗談だよ、冗談。でも、キスくらいならいいでしょ?」
「そうねえ。ケンジくん? 今度うちに連れてらっしゃいよ。」
「まあ、そのうちね。」
赤ずきんちゃんたちは、女二人、とても仲良く暮らしていました。
次の日、おろしたての真っ赤なずきんをかぶり笑顔で出かけていった赤ずきんちゃんは、目を腫らして帰ってきました。
「あら、どうしたのよ。ふられた?」
「……うん。」
「あらあら、気の毒にねえ。」
お母さんは笑いながら言いました。赤ずきんちゃんは、まったく気の毒そうな顔をしていないお母さんを恨めしそうに見返しました。
お母さんは意地悪そうに言いました。
「赤ずきんのこと言われたんでしょ。」
その通りでした。ケンジはデートの最中に赤ずきんちゃんの赤いずきんを脱がそうとしたのです。
「ケンジってば酷いんだよ。いつも私のこと可愛いって言ってくれるのに突然、そんな赤いずきんは脱いでもっと可愛い髪型にしたらどう? なんて言ったの!」
「女のオシャレに口を出す男なんて、ろくなもんじゃないわね。」
「私が嫌だって言ったら無理矢理取ろうとして……。私が本気で嫌がってるのがわかったら、このバカ女って! 突然怒鳴って! 置いてきぼりにしたの!」
お母さんは夕飯の支度を中断して、赤ずきんちゃんの話を聞いてあげていました。
「あーあ、どうして私、あんな男、好きだったのかな。」
「よしよし。そうねえ。なんでかしらねえ。」
いつの間にか赤ずきんちゃんは泣き止んでいました。