2010-03-11

今さら?「ハート・ロッカー」のダメなとこ。

ネタばれ注意!】

テロリストの描写が全然できてない

「なぜ」「どのような思いで」彼らがテロをしているかが、映画を見ていてもさっぱり分からない。行動原理が不可解。

爆弾が処理されるのを手をこまねいて眺め、処理されたら慌てて目の前で逃げるお茶目さん。

・丸見えな場所でこれ見よがしに遠隔起爆スイッチを操作して怪しまれるお馬鹿さん。

・手の込んだ場所に起爆装置を隠した割にはジェームズがえんえんと探しまわる間何もしないうっかりさん(じゃあ何のために隠したの?)。

・やたら神がかった命中率を誇る砂漠の狙撃手は、サンボーンが撃ち手になった瞬間から一発も弾を撃たない。弾がジャムって出ないトラブルの間も辛抱強く待ち、おまけにサンボーンの狙撃の命中率が結構高いことが分かってからも体丸出しで狙撃しようとする。

・せっかく山羊の群れまで率いて背後から挟撃を図ったテロリストは、棒立ちのエルドリッジが発砲許可らしきものを求めてる間ずっと何もせずに待ってあげる(彼が自分に気づいて銃を構えているのが見えなかったはずはないのに)あげくの果てに撃ち殺されるまで何もしない。

彼らはまるで、映画途中でエルドリッジが遊んでた戦争ゲームの敵兵みたい。悪いジョークだ。



映像づくりやカメラワークが下手

「衝撃的な絵」がつくりたいのか(爆破シーンとか)、「印象的な絵」がつくりたいのか(夕焼け電話シーンとか)、「前衛的な絵」がつくりたいのか(夜の探索シーンで真っ暗闇が5秒ほど続いたときは、締め切り間際の漫画家の手法かよと思った)、「リアルな絵」が欲しいのか(最初と最後だけ少しドキュメンタリふう、あとはふつう映画ふう)……統一がなく調和もないので、何をやりたいのか分からない。監督の頭の中で事実妄想趣味と実益がごっちゃになって整理がついていないのだと思う。

特にひどいのは、物語り終盤のジェームズサンボーンの会話シーン。

最初の隊長が死んじゃったくらいの爆発に見えるのに、なぜか鼻血だしただけのメイク普通にいつもの車で帰還するジェームズにも腰が抜けたけど、会話をえんえんと顔のアップ(交互)でやられたのには参った。安いTVドラマでも今時やらねーぞあそこまで。しかも会話の内容がだるい。三行でまとめれば

「お前考えすぎじゃね?」「お前が馬鹿すぎなんだよ!」「そーか、困ったな」

で終わる程度の底の浅い会話。


○登場人物の描写がダメ

人物がダメ、なのではなく(彼らはそれぞれ、それなりに愛すべきキャラクターだったと思うし、俳優も頑張って演じていた)、描写がダメ。これはかなりマズい点だと思う。

・エルドリッジ:繰り返し出てくるダメダメカウンセリングでも、エルドリッジがこれまでどんな人生を送ってきて今どう感じてるという歴史が全然見えない。「怖いー、死にたくねー」と言わせてるだけ。だから、最後にヘリに乗せられるシーンでも、彼が悪態つきながら少し成長した演技してるのに、それを生かせない。軍医が死んで錯乱するシーンも、嘘っぽく見える。

サンボーン:諜報部出身というキャラを生かそうと、落ち着いた考え深い演技を俳優がしてるのに、最後のダメ会話シーン(上記参照)で台無し。おまけに最初は主人公ぽく出てきたのに物語ラストでは一顧だにされてないかわいそうな人。彼はどうなったの?マジで

ジェームズ子ども好きだったり純粋だったりそれでいて戦争の犬っぽくなった彼の「過去」について、ガラクタでもって語りかけたところでサンボーンがけなす、でもってジェームズが軽くマジギレしかけて…ってとこで、俳優はあのひょうひょうとしたジェームズに、結構深みのある顔をさせてた。おお、ここでジェームズがようやく描かれるのかー…と期待したら、あっさり牡同士の疑似ホモシーンに興味を移す監督ダメすぐる。おまえは腐女子か。大体、登場人物の内面を、答のない対象をあいてとしたモノローグ(犬とか猫とか、木とか、そして赤ん坊とか)で描くとか、今どき自主制作レベル映画でも恥ずかしくてやらないと思う。


ストーリー破綻

回収されない数々の伏線意味が分かりにくいシーン

・最初に現場から逃げたテロリストと、壁につながれたコード。何?もう少し説明してよ。

・結局、こっそりDVD屋を脅して進入した家の教授は何だったの?

砂漠で我慢比べのシーン、エルドリッジが撃った奴以外に、結局敵はいたの?いなかったの?

・廃工場軍医が死んじゃう話、最初は「不発弾処理のための出動」って言ってたのに、いつの間にアジト捜索ミッションに変わってたの?そんなミッション軍医(しかも大佐?)を連れてくなよ。

・廃工場テロリストはなぜ死体爆弾を隠したの?たばこには火がついていたのに、死体はすでに死後硬直もとけて腐っている状態?にもかかわらず遠隔爆破したのは軍医の横においてあった袋とか、わけわかんねえ。

・ちなみに廃工場のシーンで、流れ的に全くスルーされてたけど、部屋の中にビデオカメラがあって、「まさかこれで見てるとか、そういうのか?」と思ったけど、全く意に介さないし、物語にもなんも関係なかった。あと、生活空間の壁の旗は「アジトっぽい」と言えばそうだけど、あんましリアルではなかったね。

・深夜の追跡は明らかに逸脱だし、最初はあのミッションも「爆発の原因を調べる」ためじゃなかったか。命令された仕事をせず、命令外の出来事に勝手に部下を巻き込んで怪我させて…ちょっと軍法会議ものじゃないかと思う事件がスルーされるのは納得いかない。一体彼は、部下の怪我の原因をどう報告したの?

・「残り2日」、から、舞台の別れのシーンもなく、いきなりアメリカで買い物してるシーンに飛ぶ……なら「あと○○日」ってえんえんと書いてきたのはなんだったんだよ!と個人的には思った。シリアル買うシーンは、ちょっとおもしろかったけど。


まあ、そんなわけで、現在進行形アメリカの人とは全然違う感想になるんだろうけど、一本の映画としてみたときにはちょっと完成度の低い映画だなあ、と思いました。まあ、ディレクターズカット版だとまた違うのかもね、とは思うけど。

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