2009-09-16

イラクの治安部隊再建は見通しが立った。が、アフガニスタンは?

兵站の開拓はおろか、新兵は文字が読めず、記号も分からず訓練が大幅に遅延

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▲ビン・ラディンがネットで欧米に挑戦

オサマ・ビン・ラディンの肉声と思われるテープ(11分間)がネット上で世界に流れ、オバマ政権を徹底批判していることが判明したが、真偽のほどは不明である。英国の専門家は、「映像を伴なっておらず本人と断定するに足りるテープとは言えない」(英国のテロ専門家、スティーブ・パーク)とする。

テロリストの首魁=オサマ・ビン・ラディンはいまもアフガニスタンか、パキスタンに隠れて世界各地の過激派に指令を出していると見られる。

アルカィーダの組織は、しかしながら欧州からアフリカ諸国へ分散しており、米軍の対応も世界的規模で活発化している。

ソマリア南部では紅海洋上の「無人飛行機」から発射されたとみられるミサイルが走行中の車を爆破炎上させ、十五名が死亡した。その犠牲者のなかにはFBIが懸賞金をかけて探していたサラレ・アリ・サレー・ナビハンが含まれていた。

かれはアル・ジャバブ派を率いるがアルカィーダに近い過激派の首魁でソマリア政府に戦闘を挑んでいる。

ソマリアは無政府状態、それが海域に海賊を輩出させている。

パキスタンのワリジスタン地方でも無人機からのミサイル攻撃が過激派に加えられている。

米軍は無人機によるミサイル発射の事実を認めてはいない。

▲テロリストからの反撃も凄惨を極める。

アフガニスタンの表玄関=カブール国際空港がタリバンの自爆テロで攻撃され、十数名が死傷、重傷のなかには米兵とベルギー兵が含まれた。カブール国際空港は軍民共用、テロリストらは二台以上のランド・クルーザが爆弾を積んで突っ込んだ。非戦闘員二人が死亡(9月7日)。8月15日にはカブール市内の多国籍軍(ISAF)本部が自爆テロに襲われ十五名が犠牲になったばかり。

いったい過激派は、どのルートからカブールに潜入し、どうやって武器を搬入しているか。ゲーツ国防長官は明確に言い切る。「それはパキスタン国境からである」(米軍プレスリリース)。

実際にパキスタン北部から西北部はザルカイ政権の統治が及ばぬ無法地帯、タリバンやアルカィーダが逃げ込み、休養後、再出撃する。

あたかもベトナム戦争のホーチミン・ルート、北爆の対象はラオス、カンボジアでもあった。猛烈な爆撃のあと、皮肉にも両国は共産化し、米国が必死に守ろうとした南ベトナム政府は腐敗とともに消滅し、ついに共産主義派が米国を追い出した。自由と民主をもとめた人々は粛正されるか、“ボート・ピーポル”となった。

九月三日に起きたアフガニスタン北東部クンドス郊外のタンクローリー二台の乗っ取り事件では反撃にためNATO機が出動、四日早朝に空爆した。その後の調査で69名がタリバン、30名が住民の犠牲だったという具体的数字がでた。タリバンが付近住民に「ガソリンがただだから取りに来い」と誘った経過も分かった。

カルザイ政権は米軍とNATOに対して徹底的な事故究明調査を要求していた(アルジャジーラ、九月15日)。)

タリバンはカラシニコフ銃を常備するほかに迫撃砲、遠隔操作可能な爆弾なども所有、潤沢な麻薬資金でハイテク武器を調達するため高性能化している。欧米が援助して建てた道路、学校、警察署が標的とされ、タリバンは軍民構わず紛争の地獄をめざしているかのようだ。とくにタリバン時代、女性の教育が禁止されていた。いま小学校へ通う女子に対してもタリバンは容赦なくテロの対象としているため、学校の警備をイタリア旅団が行っている。

▲増派の急先鋒はレビン上院議員

九月十五日、上院で証言に立ったミューラー統幕議長は「増派、とくにアフガニスタンに自前の軍隊をつくるために、もっと訓練する必要がある」とした。

しかし問題は軍と警察の訓練なのである。イラクでも、イラク人を警察と治安防衛の任務に当たらせるために特訓をした。なんとか、イラク軍が自力の警備を展開できるようになり、最近は爆弾処理班の専門部隊が、爆弾処理特訓のためにイラクへ入った。米軍は数千の講師をイラクにおくり、四十数カ所に訓練所をつくって訓練したのだ。

アフガニスタンにおける警察と治安部隊の養成ぶりはどうか。最悪の難題は識字率である。自分の名前を書けない。記号が分からないという恐るべき教育程度、全土の識字率は25%だが、新兵に応募してくるアフガニスタンの若者は貧困層からが圧倒的だから識字率10%、それを即席にたたき込んでも限界がある。

将来、22万人から40万の治安維持の軍と警察が必要とされるため米軍は地獄の訓練のようにスペシャリスト、特殊講師を派遣して特訓を積み重ねてきた。平均十週間、特訓を積んでもアフガン兵は覚えが悪く、成果が上がらず、数週間訓練を延長しても完璧にほど遠く、しかし兵力不足が切迫しているためほどほどのところで戦場へ送る。

逆に新兵らは激戦のつづくカンダハル、ヘルマンドへは行きたがらず、カブール近郊での勤務を望む。あまりの我が儘に訓練講師らは音を上げているとワシントンポストが伝えた(9月12日付け)。

上院でアフガン増派の急先鋒=レビン上院軍事委員会委員長は「2011年末までに134000の兵力とし、2012年までに24万人のアフガン兵を養成したい」としている。だが現在の達成率は12%に過ぎず、現地軍がいずれ西側の軍事力の代替となる日程は遅れる。

▲イラクはバース党という近代組織があり識字率が高かった

アフガン現地の最高司令官マクリスタルは、内心ではそれでも不足と考えているらしい。米国から増派される兵隊には四千名の特訓講師が含まれている。

イラクにはすでにサダム・フセインの時代から近代的なシステムが確立されており、西側の遣り方を飲み込むのも早かった。バース党という強い組織も残存していたから新たな軍事組織や警察機構を創りやすい。「現在、イラクでの特訓は兵站、技術、情報分析など高度なカリキュラムである」(ヘラルドトリビューン、9月15日付け)。

しかしアフガニスタンはまったく違う。砂漠を越え渓谷や草原をひとつ越えれば、部族も言葉も違う、各地方は長老の統治方法が異なる。要するにどうにもこうにも英米軍のシステムになじむには文化的に体質が異質でありすぎる。これらの難題を米軍とNATOは、今後、いかに克服するのか? 

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 「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 

     平成21年(2009年)9月16日(水曜日)貳

        通巻第2714号  

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