第一印象から記そう。
テーブルには男3人と女3人が向かい合っていた。
俺の向かいに座ったのは細身で長身。
涼しげな白の上着に、長めのスカート。
今時珍しいくらい真っ黒でまっすぐな長い髪を軽くまとめた、
残りの2人の女子大生は良く喋り、良く笑う。
けれど、俺の前の彼女だけは、にこやかに相槌を打ち、微笑むだけだった。
彼女との対比ゆえか他の二人はむしろ喋りすぎ、笑いすぎに見えた。
喋る度に机の上で踊る手のひらは、まるで既に井戸端会議のオバチャンだ。
男が話題を振る。女二人がお互いに喋り捲る、彼女微笑む。
他の男が話題を振る。女二人がお互いに喋り捲る、彼女微笑む。
放っておいても喋り続けるであろう2人のオバチャン候補よりも、
なんとなく俺は目の前の彼女と話がしたくなった。
時折振られる会話の内容と、彼女の応え方から、俺は彼女の興味を探った。
俺以外の男も、彼女が気になっている気がして、なんとか先手を打とうと頭を捻る。
白い肌と、細い顔の上品な笑顔も素敵だが、もっともっと話がしたいし、声が聞きたい。
好意的だ。とても好意的。
そして、数分後、俺の努力は実った。
がぼっ
だが、その笑みを見た途端、俺は衝撃を受けた。
何か、説明の出来ない気分に襲われた。
彼女は俺の衝撃に気付くことなく、オバチャン候補も気付かない。
しかし、横を見ると、男連中は同じ衝撃を受けたように見えた。
彼女は少し気後れしていただけのようだった。
一度満面の笑みを浮かべた後は、次第に積極的な笑顔になっていた。
オバチャンコンビのように手を振って会話するような事はなく、
やはり清楚なままだが、会話の合間に微笑ではなく笑みを浮かべる。
がぼっ
俺の背筋を冷たいものが走る。
おれはこれを見た事がある。
どこだ…?
がぼっ
がぼっ
歯茎の下に並ぶ、真っ白な歯。
がぼっ
その歯に被さった、金属。
最初思い浮かんだのは、深海魚だった。
けれど、もっと鮮烈で、ある意味美しい。
口の中から口が出てくる、という恐怖。
金属と肉体の混在。
そうか
H・R Gigerだ。
彼女は、清楚で美しかった。
今時珍しいほど、俗っぽい所が見つからなかった。
だからなのだろうか。
飛び出た歯茎と矯正器具は、何か手の届かない、別の世界の生き物を髣髴とさせた。
それは嫌悪感ではない。
畏怖にも似た、原始的な恐怖だった。
気が付くと、男連中は声が少なくなっていた。
ひたすら喋り捲るオバチャンコンビのおかげで、気まずい空気はなかった。
多分。
あの時と同じ透き通るような白い肌に、清楚な顔立ち。
黒く長い髪。
隣に居たのは他の女友達だった。
彼女はあの時と同じ微笑を浮かべていた。
綺麗で、可愛いな、と思った。
俺は彼女が満面の笑みを浮かべるのを見ないように、その場を後にした。