2009-05-30

連続SS

 今日1日の終業を告げるベルが鳴り、クラス一同の起立礼が終わるか終わらないかの一瞬のうち、

俺はまたもやハルヒに強引に手を引かれ、セントバーナードに引きずられるこども高校生のような状態に陥った。

 そうして連れられてきた場所はどこかの部屋のドアの前だった。こんなところに何の用があるんだと聞きたかったが、

俺は数十秒前からスイスイ簡単と名高い掃除用品のごとく床を引きずられてしまっていたうえいきなり手を離されたのでしたたか頭を打ってしまった。

 そんな俺にお構いなしにハルヒは勢いよくドアを開き――

「これから、ここがおいどんたちの部室でごんす!」

「ちょい待て」

 俺は先程の強打とハルヒが口走ったとんでもない宣言のため物理精神的に頭を痛めながらも、どうにかドア横の壁にもたれかかって座り、部屋の中に入ったハルヒにそこから質問した。

「……何処なんだよ、ここは?」

文化部の部室棟でごわす。文化部といっても、美術部や吹奏楽部なら、その名が表わすとおり美術室や音楽室を持ってるでごわすな?

 ここはそういう特別室を持たないクラブ同好会の部室が集まっているのが、この部室棟――通称旧館でごわす」

「で、この部屋が空いているから使おうってか?」

「いや、ここは『おか研』の部室でごわす」

「は? 『オカ研』はお前が以前仮入部して失望したって……」

「仮入部したのは『オカルト研究会』じゃなく『超常現象研究会』でごわす。ここはそれとは違うでごわすよ」

「はぁ?」


「ここは『お菓子研究会』の部室でごわす」


 壁に背を預けながら、中のハルヒとの会話は続く。

 ほう、お菓子研究会。うむ、何をするのか分かるようで分からない研究会だが、ひとつだけ確実に言えることがあるな。

「……じゃあ、この部屋はその『お菓子研究会』のものなんだろ?」

「うむ。しかし、今年の春に3年生が卒業してしまったせいで、部員0。新たに誰か入部しないと休部が決定していた唯一のクラブなのでごわす」

 で、その哀れにも休部となったクラブの部室を頂戴しようってか?

「いんや、1年生の新入部員であるこの子が居るでごわす」

 ……待て。今なんて言った? 新入部員のこの子?

「おい、それじゃ休部になってねぇじゃねえか」

「似たようなもんでごわす。部員は1人しかいないんでごわすから」

 呆れた野郎だ。それじゃまんま部室乗っ取りじゃねえか!?

 ようやく物理的な頭の痛みも治まったので、立ち上がりハルヒの戯言に茶々を入れるため『お菓子研究会』の部室の中に突入した、の、だが。




 地響きがする――と思って戴けたら、こちらとしても甚だ幸いである。

 ただし、ここでいう地響きとは何度も言うが地殻変動の類のそれではない。  



 巨体だ。いや、あれを巨体と言以下略



「――――――――またかよ」

 やっぱりハルヒほどではないが、やっぱり明らかにそういう体型の子が、どうみても体型に見合ってないパイプ椅子に座りながら、

黙々とスナック菓子を食っていた。眼鏡をかけた髪の短い少女である。

 これだけハルヒが大騒ぎしているのにもかかわらず、視線を向けようともしない。

 動いているのは袋からスナック菓子を取り出し口に持っていく右手の動きとそれを咀嚼する口周りの骨と筋肉の動きだけで残りの部分は微動だにせず、俺らの存在完璧に無視し続けている。

「その……あ、あの子はどうするんだよ?」

「別にいいって言ってたでごわす」

「本当かよそりゃ?」

「昼休みに会ったときに、『部室貸してほしいでごわす』って言ったらば『どうぞ』と。お菓子さえ食べられればいいみたいでごわすよ」

 そんな「ハサミ貸して」のノリで貸し借りできるのか、部室。

「むう。ま、変わっているといえば変わっているでごわすなぁ」

 はい、お前が言うな

「――――――」

 んお、件の研究会員が何かこっち見てる。ちなみに、ハルヒ朝倉川の例に違うことなく、矛盾輪郭の持ち主であったことは言うまでもない。

 あと付け加えるならば俗に言う神秘的な不思議系の雰囲気を醸し出しているようなそうでないような。


長門 湖(ながと うみ)――でごわす」


 淡々と異様に野太い声で彼女は言った。一応それが名前らしいがやっぱり「ごわす」か。

 名前を告げたからもう用はないといわんばかりの態度で、再び彼女は黙々とスナック菓子機械的な動作でむさぼり始めた。

「あー、長門さんとやら。こいつはこの部屋を、何だかよく分からん部活の部室にしようとしてるんだぞ? ……それでも、いいのか?」

「いい――でごわす」

 長門湖はスナック菓子の袋から目を離さずに答える。

「いやあしかし、たぶんものすごーく迷惑をかけると思うぞ?」

「別に――でごわす」

「そのうち、追い出されちゃったりなんかするかもしれんぞ!?」

「どうぞ――でごわす」

 いや……即答してくるのはいいんだが、もうちょっと色のある応答をしてもらいたいなぁ。あと「ごわす」付けがとってつけたようになってるのは何故だ。

「ふふん。まあ、そういうことでごわすから――」

 ああ、声が弾んでいる。良くない。非常に良くない予感がする。

「これから放課後、この部屋に集合でごわす! 絶対来るでごわすよ。来ないと――全力で“てっぽう”入れるでごわす!」

「…………へぇへぇ、わかったよ」

 コイツの全力での“てっぽう”なんて、死刑に等しいからな。死ぬのはごめんだ。

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