2009-05-12

今の実家引っ越したのは俺が高校生の時だった。

数区画の建売で、ブロック毎に分譲された隣の家には、小学生女の子が居た。

俺の家には猫がいて、その猫目当てにその子は頻繁に俺の家を訪れた。

「お兄ちゃん」

「お兄ちゃん」

と懐かれて、妹の居ない俺もまんざらじゃなかった。

昼間寝ていて、起きたらその子が勝手に上がりこんで猫を抱いていて、にっこり笑われてビックリした事もあった。

後から、その子が新しい学校に馴染めずに、友達がなかなかできなかったんだとと聞かされた。

高校大学と、俺はあまり家にいる事がなかったが、隣の子は目が合うとなにかと話しかけてきた。

いつぞやは、ピアスの穴を開けるか開けないかで母親喧嘩したとかで

「もうすぐ中学生なんだから。

お兄ちゃんだって、女の子は綺麗にした方がいいと思うよね!」

なんて同意を求められ、苦笑いしたのもついこの間のような気がしていた。

俺が結婚してた後も、実家に帰ると、俺の娘を可愛い可愛い、と絶賛して遊んでくれたりしてた。

そして、ついこの間。

俺は嫁と娘を連れて、近所の大きな公園花見に出かけた。

シートを広げてのんびり弁当を食っていると、嫁が俺に声を掛けた。

「ねえ、あれ、あなたの実家のお隣のXXちゃんじゃない?」

嫁の指差した方向には、一組のカップルが居た。

そこにはどう見てもキャバ嬢と、ホストがいた。

「いや、あれはないだろ…」

思い切り脱色して逆毛で大きく盛り上げた髪

下着が見えないのが不思議なくらいのミニスカートから出た生足に引っ掛けたハイヒール

真っ白な顔に真っ青な目元

AGE嬢のような彼女はちらりとこちらを見た。

目が合った。

彼女は次に俺の娘を見た。娘はぽかんとしている。

俺は違うと確信した。

気さくな性格の嫁が声をかけた。

「もしかして、XXちゃん?」

キャバ嬢の口から出たのは、間違いなく隣の女の子の声だった。

そう、俺だって、就職して、結婚して、子供までできたんだから

隣の子がいつまでも小学生のはずはないんだ。

けど、俺の記憶は精々ピアスをつけたい、と強請っていた、あの時で止まってた。

歯並びが悪いから矯正したい、と言うのに「八重歯だろ?可愛いじゃないか」と言ったら、はにかんだ笑顔を向けた女の子のままだった。

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