言葉の『意味』を扱う意味論という学問の世界では「関連性の原則」というものが知られている。会話の最中に「関連性のない話題は基本的に選ばれない」という原則。
その原則のおかげで、「一見関係が無い話題を出すことで、直接には言えないことを遠回しに伝える」というよくあるレトリックが成り立つことになる。
たとえばギャング映画なんかでよくある、融資を断った相手に対してイキナリ「…そう言えば、お孫さん、そろそろ可愛い盛りですね?」ってヤツ。「…キ、キミは私を脅すのか?!」「落ち着いてください。私はそんなこと何も申し上げていませんが?」みたいな。直接言ったら『脅迫』になってしまう内容を、相手に〈推測〉させることで、
(1)『脅迫』などしていないと逃げる余地をつくり
(2)余裕を見せつけることで相手の恐怖感を煽り
(3)頭のキレる相手にこちらの頭のキレを見せつける
…など、様々なメリットが期待できる話術。
また、『伝聞』というスタイルで、自分から相手に直接言い難いことを仄めかす、というレトリックもある。
たとえば、相手のことを疑っているときに「いや、キミが詐欺師だと言う輩がおってね。いやいや、ワシは当然キミのことなど疑っておらんがね。そういうことを言う人間もいるので、ここは一つ身の証を立てて貰いたいんだ。」…とか言って、要するに疑ってんのはテメーだろ、みたいな。まあ実際ここまであからさまな言い方は珍しいけど世の中では結構よく使われている「世間」話法とかが、つまりソレです。「お前そんな人と結婚するなんて、別に私は構わないけどヨソサマになんて言われるか…」「だからそのヨソサマって誰だよ!連れてこいよ!」みたいな。
政治家は、こういう話法を普通に駆使してしゃべる。いわゆる「永田町語」というヤツですね。だから、結果として彼らの会話はどこまでが普通の言葉でどこからがレトリックなのか非常に分かりづらい。政治の世界でずっと取材してる記者とかもまた、その辺りのアンテナをビンビンに張ってないと仕事にならないので、言葉の直接的な『意味』だけでなく言葉に含まれている意味、いわゆる『含意』を読み込む習性が非常に高い。先日の麻生の株屋発言も、そういう文脈で見れば、どうして各紙がああいう報じ方をしたのか理解できると思う。
株屋発言について詳細を吟味するページ:http://www.garbagenews.net/archives/497015.html
このリンク先の方は、各紙の報道を「麻生発言をねじまげるもの」と判断した上で
意図的ならば悲しい話であるし、本筋を見極めて概略を伝える能力に欠けているのなら、それはそれで(報道としての)存在意義を疑わざるを得ない、というところだろうか。さらに加えるとするなら、なぜ大手報道会社が一斉に同じ「認識ミス」を「同じ部分」で行い、「同じように」「同じタイミングで」報じたのかも、考えてみる必要があるのかもしれない。
確かに、麻生発言にそこまでの意図はなかったかもしれない。でも断言はできない。だからこそ、「文脈の中で、問題があるとは思わなかった」という声と「自分は不快に感じた」という声の両方があるわけで、その意味でリンク先にある読売の報じ方は実は非常に正確だと言える。逆に「麻生発言には全然問題なんてないじゃないか」と新聞が報じれば、後者の感じる不快感はスルーされ、こういう皮肉やあてこすりによるイメージ操作を政治家がし放題ということになりかねなくて、危険なのだ。
このように、普通の人(非業界人、という程度の意味で)が「生の情報」「一次ソース」に触れたところで、果たして『事実』に到達できているかどうかはまだ分からないのだ……ということは一応指摘しておきたい。国会の議事録読むときとかでもそうだけど、どういう文脈で、政治背景で…ということと併せて、「どういうレトリックで」喋っているか、ということにも注意を払う必要がある。それは報道記事を読むときも同じで、結局そういうこと全体をひっくるめて情報の価値をはかる能力をメディア・リテラシーという。リテラシーのない状態で、ただ漫然と垂れ流される一次情報だけを見ていても、情報を流す側の操作を見抜くことなんてできない。
まあこの元記事自体が一つの政治的な意図をもった何かなんですよ…ってことなら、もう何をか言わんや、って感じなんですけれども、一応とりあえずマジレスしてみた。増田だしな。