2009-02-23

図書館

ロースクールが出来た今となっては見られない風景になってしまっただろう。

当時、僕は大学生で進路を決めないといけない時期だった。

「将来どうしよう。働きたくねぇな・・・でも、プラプラもしてられないし。」と

院に進む、就職する、思い切って留学しちゃう等の選択肢に悩んでいた。

で、友人に気を使うのが嫌だったから知り合いのいない図書館に行く事が日課になっていた。

通うようになると顔見知りもできてくる。別に声をかけたりなんかしないが「お、今日もいるな。お疲れ様」とこっちが勝手に思う程度。

図書館にも良い席と悪い席がある。良い席は基本的に角だ。目の前に人が通って集中力を削がれることもない。

そこにいつも座っている女性がいた。化粧気はないが、通った鼻筋と長いまつ毛。小ざっぱりとした服。

机の上にある本から司法試験の為に勉強している事は分かった。

もしも彼女タバコを吸っていて、喫煙コーナーでふと二人っきりだったら

「いつも勉強大変ですね」と声をかけたかった。

もっとも彼女タバコなんて吸わなかったし、僕にもそんな勇気はなかったけど。

更に通っていると気付いた。彼女の3席隣に同じ司法試験浪人生がいる。若白髪で如何にも不器用そうで、でもきっと真面目な男だ。

そしてそのまた3つ横の席にも同じ司法浪人生がいた。明治の売れない作家みたいな眼鏡をかけてガリガリの男だ。

彼ら2人は彼女を守る番人のように、もしも不届きな輩が彼女を誘惑しようとするなら

刑法第143条でその行為は禁じられている。判例昭和47年10月斉藤事件の判決文をよみたまえ」

「そうだそうだ。常識だぞ。判例百選のP420だ。」

と素晴らしいガードをしてくれそうだ。当然、全て僕の想像だし、彼女と彼らが話している場面は見ることが無かった。

そんな風景も昔の話だ。僕は就職し、おそらく何も無ければ結婚するであろう女性同棲までしている。

他人が2人で同じ家に住むのは大変だ。息が詰まる時だってある。そんな時にふらっとあの図書館に行ってみた。

そこには目尻に小皺が出始めた彼女と、番人2名が勉強を続けていた。

と、以上が4~5年前の話。

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