2009-01-23

女子がズボン

「しっかし、お前のズボンって全然違和感ねえな」

「お前って言わないでよ、いい加減。彼女でも何でもないんだから」

「はいはい、だけど、ほんと男と見分けつかねえよ、そんなんじゃ」

「うるさーい」

幼馴染の響子にカバンで頭をどつかれながら、高校への通学路の桜並木を歩く。春の日差しが温かい。俺達が今春から通う高校は、全国でも珍しいズボンスカートを選択できる高校だ。俺は女子はやっぱりスカートだろと思ってるが。

響子は動きやすいからという理由でズボンを選んでいた。通学路には他にも何人かズボン姿の女子がいる。スカート姿の女子の中にズボンの女子がいるというのは、なんとなく違和感があるが、ショートカットで胸がアレな響子にはズボンは全くと言っていいほど違和感がない。

「あら、もうこんな時間! 急がないと遅刻だよ」

「待てよ、急いだらほら、お前ってば……」

慌てて走り出した響子は、お約束のように石も段差もバナナの皮も何もない道路で派手に転んだ。

「いったーい」

大丈夫かよ」

飛んでいった響子のカバンを拾って、起き上がるために手を貸してやる。涙目になっている響子の顔が近づくと、さらさらの黒髪のショートカットからシャンプーの匂いが香った。どきんと心臓が跳ね上がった気がした。2、3秒あるいは2時間くらい響子が俺の目を見つめ、俺はその目に吸い込まれるように見つめ返した。

あれ? 響子って、こんなに……可愛かったっけ。

その瞬間、ただ単に違和感がなかっただけの響子のズボン姿が、魔法をかけたように変わっていった。

似合ってる……。

気品に溢れ、気高く、凛々しい美しさが漂っている。心臓がもう一度どきんと跳ね上がったような気がした。さっきよりも、強く。

自分が考えていたことが響子に伝わってしまいそうな気がして、あわてて響子を引き起こして、顔をそらした。

「ほら、もう遅刻するから行くぞ!」

「ありがと」

そういう響子の声を背中で聞きながら、意外とズボンも悪くないかもと俺はちょっとだけ思った。

http://anond.hatelabo.jp/20090123115812

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