早朝のマクドナルド。
カップルがイチャついていて。カップルの会話が好きな僕は聞き耳をたてた。
スウェット姿の男。むちむちしたジーンズと大きなおっぱいの女。
男が、女に化粧してあげている。仲がいいな。エロい会話しないかな。
女の言葉には北のほうのアクセントがあって。いまどき、珍しいくらいの強いそれに、へえ、と思った。
可愛いな、と思った。方言は、好きだ。
「東京きてから一着しか服買ってないんだ」
お金を何に使っているの?
知り合いに買わされたの?
「知り合いじゃないけど。騙されて、走っていたら煙が出て」
というようなことを、女が、強い訛で言う。
可愛いな、ばかだな、とおもう。
キャバクラで働いているのだという。
仕事はきつく、やめたくてもやめさせてもらえず、みな、給料をもらったら逃げるのだという。
カップルではなかったみたいだ。
男は、夕方からだ、と答え。女は「えー、なんでですか!」と、青森弁で驚いていた。
「何の仕事しているんですか」
茶髪の男。30からみ。スウェットにサンダル。指に、大きな石のはまった金の指輪。
男は、俺の仕事なんだと思う? と聞いた。
いつも夕方からだよ。
男は、何度か言い回しを変えてほのめかした後、通じないので諦めて言った。
ホストだよ。
「ホストは好きじゃない」どこか甘えた響き。
なぜだか、かなしい気持ちになった。
一流の会社に勤めている人かとおもった。
男は言う。もう、ただのおっさんだよ。
「すごく高いんでしょう。売っちゃおうよ」
楽しそうな青森弁。売って、服買っちゃおうかな。
次の給料をもらったら、キャバクラからは逃げるのだ。精神的に、きついから。
どんなブランドが好きなの? と、男が尋ねる。
ブランドは好き? 何が好き?
「ブランドには詳しくない」
青森では、あまり売っていない。
親はフランス料理店をやっているのだという。
電話をしたら、泣いて、帰ってこい、と言われたのだという。
その話は、少し、照れたように言っていた、ようにおもう。
ロザリオとか好き? と、男が尋ねる。
不意に、ひどくかなしい気持ちになった。
男が答える。
キリスト教系だよ。
「じゃあ好きです」じゃあ好きです。
それなら、あげようか。
「ホントですか」
そう言って、ふたりはマクドナルドを出て行った。
片づけずに、机の上に置きっぱなしにした灰皿を、女の方が少しだけ気にしたように見て、そのまま出て行った。
嬉しそうに出て行く彼女は、おっぱいが大きくて、すこし野暮ったい印象ですこし太っていたけど、
可愛いな、と思った。
よくわからないけど、ただただ、かなしかった。
それから、かなしい、と思うことが、なにか、悪いことのような気もした。
青森弁という表現が、ただただ、かなしかった。 平常心を志して数年経つにもかかわらず未だにそこにつっかかるちっさな自分も、ただただ、かなしかった。
あー、ごめんなさい。知らなかったけど、青森弁ってないんだね。 どれだったのかな、と軽く検索してみたんだけど、イントネーションにしか出てなかったので、 津軽なのか南部なのか...
おまえ南部だろ。八戸にこもってろ。
どうして南部だと思ったのか知りたい。青森県民だというのは九割方予測が付くとは思うけど。