FXってご存知ですか。為替証拠金取引って呼ばれる金融商品です。
例えば、10万米ドルって1ドル120円だった頃だと、日本円で買うのに1200万円要りますよね。そして、121円で売れば、10万円の儲けがでます。でも、だれもそんな大金持ってない。
FXの場合、証拠金を支払うことで、安い値段で1200万円分の米ドルを取引したのと同じ利益を得る事が出来るのです。さらに、日本の金利とアメリカの金利の差があります。米ドルの金利が高い場合、この1日分の金利を受け取れるのです。2007年前半ころは1万米ドルで1日150円とかスワップがついていたのです。10万米ドル持っていた場合、1日1500円。一年で547500円のスワップがつきます。
うまい話ばっかりだと思われるかもしれませんが、続いてリスクの話です。FXでは、急激に為替レートが動いた場合、損を拡大させないために、勝手に決済取引されてしまうのです。この決済取引をされてしまう為替レートをロスカットプライスと言います。証拠金を少なくして、多くの外貨を買えば、それだけ利益やスワップも大きいですが、ロスカットまでの余裕は少なくしか設定できません。
多くの証拠金を積んで120円で10万ドル取引した場合、例えば110円までロスカットされないとしましょう。
一方、少ない証拠金しか積んでいない場合、117円でロスカットされてしまいます。
それなら、「ロスカットプライスを下げれるだけ下げて、スワップを永遠に受け取ればいいじゃん」という考え方も出来ます。なるほど、それは良い考え。しかし、お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、それはリスクを目茶苦茶上げるという事でもあるのです。ロールプレイングゲームで例えるなら、少ない証拠金で取引するのは『皮の盾』を使うようなものです。防御力は弱いし、盾はすぐ壊れますが、その分被害は少ない。証拠金を山ほど積むと、高価な『イージスの盾』を使うようなものです。防御力は高いのですが、もし万が一破壊されてしまった場合、ダメージがマジハンパネェのです。
そして、最大の痛さは、スワップは刻々と変わって行くという事です。1万米ドルに付き150円が100円になり、50円になり、そして、恐ろしいのは日米の金利差が逆転した時、今度はスワップを払わないといけないのです!
さて、ルールはなんとなくご理解されましたでしょうか。それでは、FXに翻弄された私の事を少しばかり語らせていただきたいと思います。
私がFXを始めた頃は、1ドル111円というレートだったです。この時私はドルがもっともっと下がって行くと思ってました。
どこかでアメリカの住宅市場がヤバイという記事を読んでいたのです。私はそれを盲信していました。私は経済には疎く、何よりちょっと思慮の足りない性格でした。FXで資産を運用してリッチになろうという、雑誌や本の見出しに踊らされるというありがちな思考だったのです。
そういうわけで始めてみたのですが、チャートの形を見ながら、米ドルは下がるはずと思っていたのです。だけど一向に下がらず、米ドルはジリジリと上昇を始めました。私はそういう局面で米ドルを買うのではなく、売ったりして、ジリジリと損を拡大していきました。さらにニュージーランドドルや、ユーロを売ったりして、かなり傷口を広げました。そして、傷口に塩がまんべんなくいきわたったところで、ようやく気づきました。この局面で米ドルなどの外貨を売ってはいけないと。
ようやく今度は、米ドル買いに走ったのです。買うようになってから利益が出始め、いつしか損を相殺できるほど儲かっていました。そして、米ドルのレートは、126円とかなっていました。「150円行くのは確実!」とかいう2chの書き込みを本気で信じるようになりました。なんだ、アメリカ住宅市場は全然崩壊しねえじゃんと思って、最初信じていた記事の著者を心の中でバカにしていました。「ロスカットプライスを下げれるだけ下げて、スワップを永遠に受け取ればいいじゃん」とか「スワップウマー」とか思っていました。
すると、突然。米ドルは・・・崩壊しました。
ここでようやくサブプライムローンと言う言葉が世に浸透してきて私の目にもとまるようになりました。崩壊はしたものの何を勘違いしたのか「まだまだ終わらんよ」と思った私は、米ドルを買い増しました。ロスカットプライスを1円下げるために何十万円という証拠金の追加が必要になってくるようになりました。証拠金と言う盾はどんどん高価になり、『イージスの盾』にダイヤモンドを埋め込み金箔を施すような勢いでした。この盾が破壊されれば・・・。
私は朝も夜も眠れなくなりました。常にレートが気になり、ネットで、テレビで、経済のニュースを追い続けました。悪夢を何度となく見るようになりました。崩壊したドルはもうとても買値に戻る気配は無く、さらに下がろうとする雰囲気を見せています。日本がゼロ金利を解除し、アメリカが利下げし、少しずつ心のよりどころであったスワップも減り始めました。
私は悩みました。その頃は、1ドル100円は絶対割れないオルハリコンよりも硬い壁だと思っていました。いざとなれば日銀砲が火を吹くはずだと信じてやみませんでした。チャートを見返すと、以前1ドル80円台がありましたが、それは日本がバブルの頃です。そんな好景気が再び日本に訪れるはずもありません。
ここで借金して、100円をデッドラインにして米ドルのレートが回復するのを待てば、必ず買値付近に戻ってくれるはずだ。何年先になるかわからないけどその時にはスワップが貯まりまくっていて、ウマーになっいるはずだ、と思いました。
そうだ!借金しよう!
そう思って鏡を見ると、本当なんですね。出るんですね。死相って。
落ち窪んだ眼窩の周辺。真っ黒に染み付いたクマ。異様にギョロギョロと怯えたような目。いつもいかなる時も為替レートが気になります。ネットに接続出来る時はリアルタイムのチャートをずっと睨みつけ、ネット環境が無い時は3分おきくらいにレートを携帯でチェックしていました。
私は恐らく、心に異常を来たしかけていると気づきました。
そして。
私は、FXをやめました・・・
ロスカットプライスこそ切られなかったものの、買値よりレートは相当下がっていたので、ダメージはかなり痛かったです。ですが、もう何より、FXに乗っ取られたような生活を脱却できてほっとしました。
まあ、正直なところ、この時はまだ少しだけ、借金して100円をデッドラインにして米ドルが上がるのを待つ方法に未練がありました。その未練も、何も心配なく夜を重ねて行くうちに、薄らいで行ったのです。何も気にせず外出し、レートもチャックせずに眠れる事はこんなに素晴らしいことだったんだ!私は普通の生活が何より一番だという事を満喫しました。
そして風の便りに、1ドルが100円切った事を知りました。
私が米ドルのレートを完全に知らなくなった頃、セカンドインパクトが起こりました。リーマンブラザーズの破綻です。サブプライムローン問題は日に日に深刻さを増し、アメリカ自動車業界BIG3の破綻が表面化してついに、一ドル80円台に突入。
とうとう、アメリカはゼロ金利に踏み切り、日本と金利差は逆転しました。ドルを買えば、スワップを支払わないといけないという事態になってしまったのです。
もしあの時、借金をしてFXを続けていたら・・・私は死んでいたかもしれません。
自分の能力の無さを弁護する気はないのですが、2007年までの米ドルチャートを見て、今の米ドルレートを予測出来る人がいるでしょうか。チャートなんて何の役にも立たないと思います。経済は生き物です。何が起こるかわからないです。無理をすれば、平凡な生活が根こそぎ持っていかれる可能性もあるのです。
投資は本当に、余剰資金で、無理しない程度にしないといけません。それを骨身に染みて感じました。
そういうわけで、FXに翻弄された男は、今も何とか生きています。
退場おめでとう。 君の場合はそれほど悪くない退場の仕方だ。 あまりに儲かりすぎて壺や白亜の豪邸を借金でかっちゃったヤツもいるんだ。 一度おいしい汁をすっちゃうと禁断症状が...
サブプライムで年収の・・・が吹き飛んだ。 ・・・あ、言えてない。 http://anond.hatelabo.jp/20081218121308