2008-09-25

ふと思いついた妄想

30歳の誕生日の日に子供が来た。役所だけは俺の誕生日を忘れないできっちりと祝ってくれる。

徹夜続きのやつれた顔で顔を出すと赤ん坊を抱えた配達員が突っ立っていて,サインお願いしますと無表情のまま言った。拒否した場合,以後の結婚は受理されないし子供を産む権利も与えられず,税金だけはどっと増えることを考えるとサインするしかないのだ。受け取った子どもはずしり,と重かった。おめでとうございます,とだけ言って配達員は帰って行った。よく寝ている子供の顔を見下ろすとため息が漏れた。

中絶法律で禁止される代わりに,30歳の誕生日が来たら強制的に養子を養う義務が生じたのは数年前からだが,国会議員どもは30歳などはるか昔の話だと思っているのかすんなりと法案は成立してしまった。世論は大荒れだったが一度始まってしまうとなかなか変わらないもののようだ。

やってきた子どもはおとなしい健康な子で,忙しい俺の下で育っている割にはすくすくと育った。いったいどんな修羅場を経験しなきゃいけないんだろうと思っていたが拍子抜けするほどだ。どうやら俺はだいぶ幸運なようだが。

そんなこんなしてるうちに俺はある女性と出会った。彼女とはよく気があい,すぐに結婚しようという話になった。彼女も三十歳を超えていたので子持ちだった。少しやんちゃな子供だったが,俺の子ともすぐに仲良くなって彼女はいきなり四人家族ね,と幸せそうに笑った。

俺の稼ぎも彼女の稼ぎも大したことないので四人の生活は裕福ではなかったから,これ以上家族は増やせない,というのが二人の結論だった。子どもは作らないように気をつけなければ,と彼女は割と深刻な顔をして言った。だってこれ以上余裕ないもの,あなたに倒れられても困るし,と。俺はただ頷くしかできなかった。また増税したのだ。給料が上がるスピードより増税スピードの方が速い。新生児ができて,彼女仕事を休むとなると,と考えるとまったくやって行ける気がしなかった。

ある日曜日子どもたちと買い物に行って帰ってきたら彼女が青ざめた顔でリビングに座り込んでいた。何かあったのかと問うとどうしよう,と泣きそうな顔で言う。

「出来たみたい……」

こどもたちは異変を察してさっと自分たちの部屋へ行ってしまった。

「どうしよう,流産したら罰金だし,このあたりに産科はないし,育てられないのに……」

ギュッと唇を結んで彼女は俺の方を見ている。しばらく見つめあう。二人とも同じことを考えているのがわかった。言葉にするのをためらったのは俺の方だった。

「……養子に出そうか」

俺はわが子の顔を知らない。

http://anond.hatelabo.jp/20080925093934

記事への反応 -
  • 何で女だけなんだ?

    • 30歳の誕生日の日に子供が来た。役所だけは俺の誕生日を忘れないできっちりと祝ってくれる。 徹夜続きのやつれた顔で顔を出すと赤ん坊を抱えた配達員が突っ立っていて,サインお願い...

      • 実際にそんな世の中になったら、皆がっちりと避妊するだろうね。 避妊も禁止?それなら海外行って不妊手術するツアーが流行るだろうね。 そもそもセックスしなければ良いだけの話だ...

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