何もかもが、何となく懐かしい。知り合って最初の頃、毎日のように長文のメールを投げ合っていたね。あの頃僕は暇だったし、あなたとつながれて幸せだった。あなたも僕も、全然違うけれど、なんというか、このふれあった感覚を何となく、記しておきたくてここに書いてみます。
あなたのような"強者"が、あんな恋に身を焦がしているのを何となく不思議に思った。いや、でも今のあなたのことは何も知らないし、彼のことも何も知らない、僕にこんなことを言う資格は全くないね。
だから僕の話をしよう。3年間つきあった恋人に去られて、僕は落ち込んでいた。今だって落ち込んでいる。あなたのくれた『独身女性の性交哲学』に書いてある一言一言が鋭きく突き刺さるね。『すごい確率で、愛は貧しさに負ける。人はお金がないと心まですさんでしまうもの』僕は貧しさに負けた。僕は彼女に何も求めていなかった。ただ毎日を自然に一緒に過ごせる人が欲しかったのだ。僕はこの3年間、無駄に貧しかった。何をするにもお金の心配をする必要があった。彼女は多くを支えてくれたけれど、2年半頑張ってだめになってしまった。
去年の秋に、僕は友人に誘われて、週末旅行へいったんだ。友人は子供を産んで、11ヶ月目。なんでそんなに正確に覚えているかというと、その子供は僕と同じ誕生日なんだ。僕は彼らから電話がかかってきたとき、二人で自分の子供が生まれたみたいに大泣きした。僕が常に愛せる、数少ない友人たちだった。
車で数時間のドライブでたどりついた、手入れは行き届いているけれどどことなく小汚いホテルの部屋で僕らはいつものように愛し合った。夜中僕はその数日前にした喧嘩について謝った。彼女は一晩中泣いていた。そして旅行から帰ってきた次の日、彼女はひどく浮かない顔をしていた。そしてとうとう晩に問いつめると、彼女は僕にひどいことをした、という。誰かと寝たって。半年前からなんとなく会い始めて、3ヶ月前にその男と寝た、と。
僕はその日、何も考えられず、会社を休んで、そこいら中を歩き回った。何も食べられなかった。
今思い出しても、おなかのそこが鈍く痛む感じがする。僕は、確かに貧しさに荒んでいたし、前の仕事もひどく僕を消耗した。でも仕事でどんなにつらいときでも、彼女の笑顔を思い出して、僕はがんばってきたつもりだったけれど、彼女の中には僕以外の誰かがいたのか、って。夏に旅行に行ったときも、彼女は僕のことを大好きだっていいながら、実は他の男のことも考えていたのかって。僕の想い出はその時すべて、なんだかなくなってしまったような気がした。Back To The Future みたいに、写真の中から僕の姿だけが消えていってしまうような。
もうだめだな。細かい事象は思い出すと憂鬱になって消えたくなってしまう。
また書くよ。