2008-07-22

インスパイア物語 序章-(3)

と、ひとしきり不思議な体験をした慎だったがこれ以上の進展もないようなので、一度家に帰ることにした。

インスパイアを主題としたこの物語が始まるには、もう少し時間の経過を待たねばならない。

家に帰るとき、慎はおかしなことに気がついた。慎の家は、集合団地のそばにある。当然のことながら同級生はもちろんのこと、学校の知り合いが大勢いる。実に学校の生徒の2割がこの近辺に住んでいる。

プライバシーが全くないかのように、どこへ行っても誰かに会ってしまう。異性と二人で歩くなど、考えられない。

そんな世界のはずだった。

だが、今日に限っては誰にも会わない。運動部、塾通い、あるいは夜遊びに出る者たち。それらに一人も会わないということは、今までなかった。今日はどうしたのだろうか。

そこまで考えてから慎は気づいた。

今日は誰にも会っていない」

幽霊のような勇一にあってから、誰ともすれ違わないし、誰の姿も見ない。そういえば車さえ一台も走ってはいない。

夕暮れが深く、夜に近づいてきた。原始的なことだな、とは思いながら慎はだんだんと不安になり、歩調が早くなる。

早歩きから、駆け足。気づいたときには全力疾走していた。早く家に帰らなければ、との思いが彼を動かしていた。

一種のパニックだった。そして、必死の努力の末、彼は家の前までたどりついた。そこにいたのは。

同じクラスの女子だった。村田君、と言って近づいてきた彼女の姿を見たら僕は、もうとまらなかった。


好きだ!愛している!!愛ってなんなのかボクにはぜんぜんわからないし、わかる保証もない!

でも君の事を考えると心臓が早くなって、自分にもどうしたらわからないんだ!

好きだ!愛している!!海の底よりも深く愛している!

君が愛してくれないくても、僕の今のこの思いは変わらない!答えがイエスでなくてもいい、ただ僕の気持ちだけでいいからうけとってくれ! 

いや、ください。

NOでいいから終わりまで聞いていて。今君を目の前にしてもう頭の中がおかしくなっている。朝起きてから夜寝るまで、もう何回も君の事を考えている。

月曜日の朝も、日曜日の次の日も、学校に行くのが本当にいやなときも君のことを考えれば、強くいられる。

君の事を愛している!突然のことでごめんなさい!でも君が好きだ。

はい、私も好きです。

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