「勇一!勇一じゃないか!」
慎はびっくりした。向こうからこちら側へ向かってきたのは黒服の男の姿は、ガキの頃よく遊んだ幼馴染の勇一の姿があったので驚いたのだ。
しかし、幼馴染の勇一の様子が一変し、慎は只ならぬ雰囲気の中、勇一のその気配を感じ取っていたが、慎がまた口を開いて慎から勇一に先に問いかけた。
「いったいどうしたんだ?勇一。」
幼馴染の勇一はまるで亡霊にでも取り付かれたかのような顔でこちらをじっと見つめているその様はまるで幽霊のようだった。
「慎。」
突然、勇一が声を開いた。その声は消え入るように小さく細く、聞き取るのが困難なほどにか細く恐ろしいほどの戦慄を慎は覚えざるを得なかった。そしてそのか細い声のまま幼馴染の勇一は先を続けた。
「慎、お前はインスパイアされたんだよ。」
「インス・・・?なんだって?」
慎は勇一に何を言われたのかまったくもって全然不明だった。その不明さはまるで奇妙な井戸の中に放り込まれた不気味な蛙のようにひどく臭う腐臭が漂っていた。
幼馴染の勇一は先に続けた。
「もうどうしてやることもできないんだ。そう、できないんだ・・・・」
そう言って口を閉ざした勇一は去っていこうとした勇一を慎は悲壮な表情で必死に引きとめようとしたが、勇一は慎が必死に引きとめようとしていたその腕を振り払い、勇一は口を固めて何も語らずにただひたすら来た道を引き返していく戻っていく様子が見てとれた。
勇一・・・。いったいどうしちまったんだ。慎は昔の思い出を心の奥の古い記憶の中から思い出していた。ガキの頃、幼馴染の勇一と遊んだ日々を思い出していた。
佐藤ごっこって言うのは至極単純なルールで誰でもいつでも遊べるわかりやすいルールで有名であり、流行らないはずがなかった。実際慎達の中でも流行っていて、流行にのっとって佐藤ごっこをやっていた。
佐藤ごっこのルールを単純に説明するならば決められた制限時間内の中で佐藤という苗字を持つ家の表札を佐藤という家からパクってきて持ち寄った佐藤の表札の数を競う至極単純なルールだ。
この至極単純なルールが、当然ながら当時の子供達の間で流行り、慎達も佐藤ごっこで遊ぶことになったんだ。
で佐藤ごっこのルールだが、やはりローカルルールというローカルな環境の中で定められたルールがあり、そのルールを元に慎達は佐藤ごっこで遊んでいた。
そのローカルルールというのがまた至極単純なルールになっており、そのルールの中で佐藤ごっこを楽しむ分には全然問題なく遊ぶことができていた。
しかし思えばそのローカルルールこそが今回の事件の発端になっているということを慎が知りえるのはまだ先のことなのかもしれない。