なので、近場の空き教室の隅で本やノートPCを広げることが多い。
その日、いつものように空き教室を見つけて勉強していると、俺と研究室の近い昔の恋人が入ってきた。
「あれ?○○、何してんの?」
「勉強だよ、ここは落ち着くんだ」
「そうなんだ。ちょっとここ使いたいんだけど、動いてくれない?」
「無理だよ。いま集中切らしたくない」
「ふーん。じゃあいいや。――入ってきなよ」
男は「え?どうすんの?」と挙動不審。
「いいから、いいから。あの人はいないものと思ってれば」
明日までの資料完成の方が気になっていた俺は
「そのとおり。静かにしてるから、お構いなく」と言った。
もちろん、人がいるということで男の方は挙動不審なまま。
彼女の言われるようにコトをすすめている。
俺はその淫靡であろうと思われる光景に目もくれず、ノートPCとにらめっこしていた。
こういったプレイをしていたわけじゃなく、彼女が抱える痛ましさそのものを受け入れるだけの心構えができていたのだ。
同情?罪悪感?言葉にはできなかった。しかし、受け入れるしかないと思った。
空き教室という配慮もあってか声を殺す彼女。わけがわからないなりに本能を隠せない男。
とにかく冷静な態度でいることが、答えになるだろう。
30分ほどで男の絶頂とともにコトは終わる。
行為の過程は耳への刺激で手にとるように把握できた。
「じゃあね」
思ったより首がかたく、彼女の方を振り向くことが困難だった。
ようやく首がまわったときには、誰の姿も影すらもなかった。