2007-10-13

ある悲惨な事件が起きる。被害者は某であり加害者は某である、ということになる。長い時間が経つ。加害者とされた者も被害者とされた者も、もう既に故人だ。あるいはひどく年老いている。記憶は薄れつつある。そこで突然、あの悲惨な事件について言われてきた事は、全て嘘だったのだ、という者達があらわれる。皆騙されていた。あるいは自分をごまかしていた。記憶さえも捏造したのかもしれない。加害者加害者ではなかった。被害者被害者ではなかった。事件は実の所悲惨でさえなかった。そうでないと言うなら物証を挙げて証明したまえ、と彼等は言う。だが既に物証は散逸し、証言は曖昧になっている。記憶をただせ、という彼等は正しいのかもしれない。だが彼等こそが記憶捏造しようとしてるのかもしれない。誰に区別できるだろう。私達は忘れっぽく、間違いやすく、記録は失われやすい。思い出せるのは嘆き訴える長い声だけだ。だがそれは誰の声だ。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん