2007-08-04

インターネット時代の素晴らしい出会い

一ヶ月ほど前。

インターネットを通じて、とある女性と知り合った。

僕と彼女は、何度かチャットをしているうちに自然と仲良くなった。

僕は、彼女がどんな人間であるのかを考えるようになった。

彼女の生い立ちや性格、そして顔を、想像の中で作り上げていったのだ。

彼女は頭がいい。

誤字が少なく、語彙は多い。

ただし、顔文字スラングは使わない。

一回の発言はとても簡潔で明瞭だ。

いつも夜の十時ごろにログインして、日付が変わったころに消える。

彼女の発言。

《あなたの顔は見えないけど、きっと美形だと思っているの》

《僕もだ》と返す。

《きっと君は美人なんだろう》

何秒かの無言。

《そんなことないわよ》

それでやりとりが終わる。

僕らは互いに、顔の見えない相手の顔を想像していた。

オフラインでは会わなかった。写真を送りもしなかった。

僕らはそれで幸せだった。

幸せだった、と過去形で書いたのは、昨日、状況に変化が訪れたからだ。

僕は喫茶店彼女と会った。

いや、本当にあの“彼女”だったかはわからない。

その女性は、友だちらしき何人かと来店して、まずミルクティを注文した。

僕は一人でコーヒーを飲んでいて、最初は彼女たちをまったく気にしていなかった。

チャットはまっているの」

彼女は言った。

思わず僕は背後の会話に聞き耳を立てた。

「ある人といつも話すの」

「彼はとても頭がいいの」

「いつも夜の十時にやってきて、日付が変わる頃に落ちるのよ」

「きっととてもかっこいい人なんだわ」

「だってそう考えていたほうが楽しいでしょう」

話を聞くにつれ、僕はその女性チャットの“彼女”であることを確信していた。

僕と彼女しか知らないはずのことを、その女性は楽しげに語っていた。

けれど、その段に至っても、僕は振り向くことができなかった。

僕は俯いたまま、コーヒーの揺れる表面を睨んでいた。

実際の彼女はどんな顔をしているのだろう、想像通りの顔なのだろうか、それとも。

踏ん切りがつかないまま数分が過ぎた。

あるいは数十分だったろうか。

「そろそろ出よっか」

彼女が立ち上がった。

ああ、行ってしまう。

僕は勇気を振り絞り、彼女の顔を見た。

彼女は、彼女はとても綺麗だった。

想像どおりの美人だった。

「あの、何か?」

彼女が怪訝な目でこちらを見た。

「……何でもないです」

僕は嘆息して、また手元に視線を落とした。

コーヒーカップの中には、脂ぎったキモオタデブがいた。

  • 普通そんな風に喫茶店で一緒にならないだろ。と思いつつ。 チャットのあまったるい体験談は大好きなので応援してます!些細な事から身バレしたことあったなぁ。 ほんともう一度チャ...

  • 創作として、好き。 さらに、デブオタが一念発起して痩せて、増田で相談しながらがんばってそれなりのかっこして、その彼女と付き合うようになった後日談とかあったら更によい。 増...

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