そのおねえさんは、友達と楽しく飲んで飲んで、ちょっと飲みすぎていた。
ボックスシートの隣に座っている、iPodを聞く見知らぬ男性に腕を絡めた。
斜め前の男性に絡んでみた。
そのうち、みんな無視。
おねえさんは面白くない。
だから余計絡む。
僕は気がついた。「彼女はさびしいんだ。誰かと話をしたいんだ」と。
でも、誰も取り合わない。
しまいには、iPodお兄さんは逆切れ。
でも違うんだ。彼女は話し相手がほしいだけなんだ。
何駅か過ぎ、みんな下りていった。
ボックスにはおねえさんと僕だけ。
本と音楽のキリが良かったので、声をかけてみた。
「おねえさん、なにかいやなことがあったの?」
「うん、ちょっとね」
「結構飲んだの」
「うん」
「独りで?」
「ううん。仲のいい友達と。とても楽しかった」
「でも… 帰り道一人になったらちょっと滅入っちゃって、誰かと話したくなったの」
そう、彼女は宴のあとの寂しさをちょっと紛らわせたかっただけなんだ。
「でも、寂しさが先走っちゃって、絡んじゃった。迷惑かけてごめんね」
「ううん、全然。こっちこそもっと早く話せればよかったんだけど、ちょっと入りにくくてね」
「ありがとう。話しかけてくれて。最後になって気分がよくなった。だって1日の最後は気分よくおわりたいじゃない」
「そうだよね」
それから彼女は自分の職種、住んでいるところ(僕の一つ先の駅だった)、その地の住み心地のよさを語ってくれた。
そう、彼女は話を聞いてほしかっただけなんだ。
だから話しかけた僕に心を開いてくれた。
僕の降りる駅が近づいてきた。
「本当にありがとう。うれしかった」
嬉しくなったのは貴女だけじゃないよ。
「喜んでもらえて、僕も嬉しくなったよ」
最後、握手して別れた。
なんか、気分がとてもよくなった。