ニワトリは荒野に出て荒れ果てた大地に身震いする。
雑草を食み、ミミズを食み、卵を産んで暮らした小さな農園にはもう戻れない。
「農園なんて潰されて肉にされるだけだぜ、それで良いのかよ」という声が聞こえて。
見上げると、鷹が数匹、弧を描いて気持ちよさそうに飛んでいる。
翼か…。ニワトリは貧弱な自分の羽をバタつかせてみる。
砂埃だけがむなしく舞い上がり、渇いた目と喉と小さなトサカを痛めつける。
「あっちに森が見える、水も食物もたっぷりある、ついてこいよ」
大きな鷹は誇らしげに言い、先に飛んでいってしまう。
あとに何匹かの小さな鷹が続く。
風に混じって嘲笑が聞こえた気がしたのは、ニワトリの空耳だろうか。
もっと大きくてもっと獰猛な生き物が居るというような話も聞いたことがある。
農園では他のニワトリ達と一緒に威嚇して、ネコも結構たじたじさせたものだけど。
一匹でなんとかなるだろうか。
羽をバタバタさせてみる。ただ砂埃が舞う。視界が遮られる。
だから、一羽の鷹が空から舞い降りてきたことに、ニワトリは気づかない。
そして、わずかな砂埃だけがあとに残る。