2007-11-15

掃き溜めの

 長年住んだ部屋を片付けていた、そしたら、見慣れない古ぼけた仏像を部屋の隅から発見した。なにやらやたら古ぼけていて、苔むしている木像だ。こんなもの、入居時にあったか? と思ったら、

「ふは!」

「うわ」

 仏像が喋った。気を吐いた。びっくりして仏像を取り落としかけるが、なんとかかっちり掴む事に成功する。

 ほっとするのもつかの間、仏像は唐突にこう言った。

「おぬし。もう少し頻繁に部屋を片付けた方がいい。でないと、ここは淀み、物の怪の巣食う温床になってしまうぞ」

「はあ」

「なんだい、その気の抜けた返事は。せっかく忠告をしているというのに」

「いや、もうあさってにはここ出るもんで」

「なにぃ」

 仏像はどこからか大層なため息を吐いた。かび臭い匂いが鼻に付く。

「もう出て行くから関係ない、なんていうのかおぬしは。いままでこれだけ汚してきたというのにか。ここに淀みを作り続けてきたというのにか。わしがいなかったら、もう既にここに物の怪が生まれていても不思議ではなかったのだぞ。

それでも出て行くからもう関係ないと、おぬしはいうのか?」

「はあ」

「くあー」

 仏像は顔をしかめた、らしい。小さい顔なのでいまいち判別が出来ない。常人には微妙すぎる表情の変化をしながら、仏像説教を始めた。

「そも、この汚れ具合といったらどうだ。ゴミタメなんてもんじゃない。まるで魔窟だ。どうやったら常人の域でこんな空間が作れるのか理解に苦しむ。あちらをみやればゴミ袋の山、こちらをみやれば再びゴミ袋の山。そちらをみやれば袋に収まりきらなかったゴミの山。どこをみてもゴミゴミゴミゴミ。しかもこの淀みから察するに、ここだけではあるまい? 他の部屋にも、ついでに外にもゴミゴミ袋が山積しておるだろう。まったく、なんたる事だ」

「はあ。まあ、昼夜逆転仕事をしてると、ゴミがなかなか出せないもんで」

「それにしてもこれはなかろう。良くこんな所に住めたものだな」

「はあ。まあ、寝る場所も生活空間もほとんどないですけど、なんとか」

「……。それにしても、これだけの量をあと二日でどうにかできるのか?」

「明日が区役所の方が強制的に捨ててくれるらしいです。僕もそのついでに追い出されるわけですけど」

「くあー」

 仏像が再び顔をしかめた、らしい。やっぱりわからん。そのわからん顔つきで仏像は再度言った。

「という事は、あれか、追い出されるのか。おぬし」

「はあ。まあ。明日までに全部捨てれれば、居てもいいらしいんですが、まあ無理ですね」

「くあー。情けない。なんとも情けない。情けないったら情けない。自分でもそうは思わんのか、おぬし」

「はあ。まあ」

 仏像、みたび「くあー」と顔をしかめる。どうもこれ以上の動きが出来ないようなので最大級の感情表現、らしい。仏様にしては貧弱な感情表現だ。

 そんな不謹慎な事を思っていると、仏像は突如「ふむ」と言うや煌煌と光を放ち始めた。感情表現に新たな一頁だ、と思う間もなく、仏像は光を収めた。

「調子は今一つだが、まあやってやれないことはあるまい。おぬし」

「はあ」

「わしが力を貸そう。部屋を片付けるぞ」

「はあ。……はあ?」

「このわしが手を貸そうといっておるのだ。ほれ、わしに祈れ。部屋よ、片付けとな」

「はあ……」

 祈って片付くならと、しぶしぶ祈りをささげてみる。こんな感じかな?

 かたづけーかたづけー。かたづけーかたづけー。

 すると、仏像がまた光を煌煌と放ち始めた。おおー、こうしてみると古ぼけたのがむしろ霊験あらたかに見えるから不思議だ。

 かたづけーかたづけー。かたづけーかたづけー。

 光が部屋に満ちていく。と、同時にゴミが、ゴミ袋が光に包まれ消えていく。

 おお。

 祈れば祈るほど、ゴミは、ゴミ袋は消えていった。だから夢中で祈った。

 かたづけーかたづけーかたづけーかたづけーかたづけーかたづけーかたづけー。

 気が付いたら、ゴミは無くなっていた。

「おお」

 声が出た。ついで感謝の念が心に浮かんだ。これで出て行かずに済む。ありがたい、と思った。だから感謝言葉を口にしようと。

 その時に気が付いた。

 光が更に強くなっている事に。まぶしいなんてものじゃない。目を閉めていても光に埋め尽くされるような感覚。もう痛い程だ。仏像を取り落とした。ごと、と音がしたが、光は収まらない。慌てて叫ぶ。

「も、もう十分! もう十分だから!」

「十分? なにをいう。まだ一番汚いおぬしが消えておらぬわ。安心せい、意識だけ奪い、体は綺麗なわしが頂くからのう」

「な」

「いうたであろう。ここの淀みが物の怪の温床だと」

 ああそうか。と思う間にも光が更に強まり、意識を塗りつぶしていった。

http://neo.g.hatena.ne.jp/hanhans/20071130/p1

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        • 「ボードゲームオタが非オタの彼女に世界のボードゲームを軽く紹介するための10本」 したかったなー。終わっちったか。

          • それは俺が見たいから是非やってくれ。 レーベンヘルツとかカタンとかプエルトリコとかあの辺を無理矢理紹介するのはちょっと見たい。 (無論ボードウォーゲームでも可)

            • 報告まだでした。 http://anond.hatelabo.jp/20080805205151 こんなもんでどうでしょうか。 私のこういう意図にそって、もっといい10本はこんなのどうよ、というのがあったら 教えてください。

        • 頑張れ!妖怪モトマスダ! もしかして「軽く紹介するための10本」シリーズは全て目を通しているのか! どんだけオタクだよ!かっこいいな! その二つを書いた人じゃないけど、ネタを...

      • ちょっと前のやつだけど、これ見てちょっと驚いた。 この中の5つのエントリ、自分が書いた奴だった。 地味に嬉しかった。

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