童貞のまま30歳を超えた男は魔法が使えるという都市伝説があるが、俺は童貞暦27年にして、ジーンズの上からパンツの輪郭を読み取る事ができるようになった。俺はこれを童貞眼力と名づけた。
その日は三連休の中日の昼間、電気街をうろついていた俺は、前を歩くジーンズの女子のお尻をなんとなく見ていた。柔らかそうなお尻。それを揉みしだく事ができたらどんなに幸せだろう。そんなことを思っていたら、見えたのだ。いや既に見えていた。分厚いジーンズの上から、彼女のパンツのラインが、くっきりと。俺は興奮した。それから俺は15分以上も彼女の後を追っていた。完全な不審者だ。それ以上は危険と考え、俺は興奮冷めやらぬまま、彼女の後を追うのを止めた。
冷静になってから、俺はついに来るところまで来たなと暗い気持ちになった。俺は既に魔法の片鱗を身につけつつあるのだ。ここに怪しい統計がある。20までにセックスを経験した男子と、40までセックスを未経験の男子の脳を比較した場合、想像力を司る部位において、童貞男子がずば抜けて発達しているという。俺の女性に対する想像力は、やがてあるはずのないものを視る力へと変わったのか。俺は笑った。そして少し泣こうとした。泣けなかった。
次の日俺は、再び街にいた。大勢の人の行き交う駅のホームで、俺は誰かを待っていた。そして発見する。いた。俺は少しドキドキしながら後をつける。分厚いジーンズに小さな、でも肉の張った尻。申し分ない。少しだけ後ろを歩いて、直ぐにわかった。やはり、俺はパンツを見ることができる。透視ではない。パンツの筋が見えるだけだ。だがそれは直にパンツを見るよりも興奮するように思えた。俺はそのまま歩き続けた。その尻がとても魅力的だったからだ。
事件はそこで起こった。俺の前を歩く彼女が突然立ち止まり悲鳴をあげた。俺は悲鳴に驚いて思わず逃げようとしたが、彼女が悲鳴をあげたのは俺のせいではなかった。スーツの男が、おそらく突然に彼女に抱きついたせいだったのだ。男はサラリーマンだろうか、ベージュのトレンチコートを羽織り、分厚いメガネをかけている。だがゆっくりと観察することはできなかった。俺は突然の出来事に彼女以上にパニックを起こしていたからだ。だが良かったのは、俺が驚いて足を前に出したことだった。体は前につんのめり、その勢いのまま、俺は頭が追いつく前に走り出し、男に体当たりしていた。そのまま男に馬乗りになる。俺は無我夢中で男を殴ろうとして、男が必死に顔をかばい「ごめんなさいごめんなさい」と呟いているのを視て、冷静になった。男は少し太っていたが、俺より背は低く、弱そうに見えた。
俺は男に乗ったまま言った。
「なんで、こんなことしたんだ」
男もパニックを起こしているようで、なかなか答えなかったが、やがて怯えた目で言った。
「そ、その人が、裸に見えて、わ、私は」
俺は振り返り、女性を見た。ショックのせいか、ペタンとアスファルトに座り込み、こちらをぼんやりと見ている。もちろん服は着ている。
「何言ってんだ、あんた」
「み、見えたんだ。確かに」
男は、座り込んだ女性を見て、目を大きくし、口を情けなく開けた。
「あんたはおかしい」
「お、おおおおおお」
そして突然に男は泣いた。男は思ったより年をとっていた。髪には白いものが混じり、顔の皺は50を超えているように見える。その人生の先達が、顔をくしゃくしゃに歪めてみっともなく泣いている。
「み、見えたんだ。はっきりと。そ、そうか、あれは、私の『裸眼』か。はは……ついに、私の意思を超えて」
俺は男の肩を地面に押さえつける。だが、男は抵抗を止めていた。
何故だか、俺は既に男の言うことを理解していた。彼は童貞だ。そして、彼の魔法は、彼女の裸を見ていたのだ。
「どんな、だった」
「え」
勝手に言葉が出た。男はきょとんとした顔だったが、直ぐに頬を緩め、空を見ながら呟いた。
「う、美しかった。小ぶりだが形よく、ピンクの乳首は上を向いていて、乳輪は大きすぎず小さすぎず。だから、私は」
「もういい」
「あ……」
「逃げてください」
「え」
そして、俺は携帯電話を取り出し、後ろの女性に向かって大きな声で叫んだ。
「今から警察を呼びます」
それが合図になった。後ろのポケットの携帯電話を取り出すために、男を押さえつけていた俺の腰は浮いている。男は身をよじり、俺を押しのけて立ち上がり、走って逃げた。
「待て!」
俺は形式上追いかけようとして、直ぐに座り込んだ女性を思い出したような振りをして、女性のところに戻った。
彼女より、男の行方が気になった。
それから男がどうなったかはしらない。未来の俺だったかもしれない男は、消えた。そして、俺の童貞眼力も消えた。電車男と同じような経過を経て、俺は、男が抱きつき、俺が尻を追っていた女性と付き合い、その結果としてセックスを経験したのだった。
今でもときどき男の事を思い出す。だが。あのとき俺はあの男の言ったことをすんなりと信じたが、それが本当だったかはわからなくなっている。何故なら俺の上で腰を振る彼女の乳首は黒く、乳輪はゴルフボールほどある。
乳輪のサイズや色は変えられないし、私も気にしているのでネタにしないでください。
文才あるね。うらやましい。 別のエピソード待ってます。
傑作傑作。 でもね、童貞眼力で見られている間だけは どんな女性の乳首も本当に淡いピンクだし乳輪は完璧な比率の大きさなんだよ。 ところが現実に観測すると それは褐色でゴルフ...
いかにして現世の魔法使いたちの注目を集め、そして絶望のどん底に叩き落す、もといすでにある絶望を再確認させるかということに重点を置いて書かれた攻撃的な文章ですね。 日々苦...
想像力じゃなくて妄想力やね。発達するのは。
こーゆーエピソードみたいなのが出てくるから増田はやめられねー 昔は胸ばっかりに目が行ってたものだが 最近はまず尻に目がいくようになった。 俺も歳だな。