2007-05-18

幅のこと

高校生の頃、存在感のないデブがいた。

容姿も成績も、何もかも中庸

話題に上ることもなく、嫌われることもなく。

空気と呼ぶにはあまりにも希薄なその存在は、

ただ「幅」として、クラス存在し続けた。

その在りようのまま「幅」と呼ばれたその男は、

たぶん要領だけは抜群に良かった。

フォローが完璧すぎる人間は、しばしば誰からも意識されない。

傍から見ると、彼は何も為していないようにすら見えた。

みんなから慕われたり、畏れられたりするには

「最善であること」はむしろ有害で、「次善」を目指さないといけない。

「幅」がもう少し要領が悪かったのなら。もう少し口汚かったなら。

あるいはその幅が、机をはみ出して教室の通路をふさぐぐらいに大きかったなら。

幅は幅としてでなく、太った同級生の一人として、みんな記憶に残ったのかもしれない。

同窓会に「幅」は来なかった。

恐らくは来なかったのだと思う。話題にも上らなかったから、確認のしようもないけれど。

幅はみんなから「幅」としか認識されていなかったから。

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