待ち合わせの時間が近いのに、電話が一向に繋がらない。
「おかけになった電話は、電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため、かかりません」
冷たいメッセージにリダイアルを入力しながら、太一郎は人込みの中を急いだ。
「新宿は何度来ても良くわからん…」
そもそも電車を降りて逆方向へ進んでしまったのが誤算だった。時間までもう5分を切っている。充分に早く駅には着いたのに。待ち合わせはアルタ前の交番、もうすぐ見えてくるはずなのだが。相手に「迷っているので遅れる」と電話をしようにも繋がらない。早く、早く着かなければ。
交番に着いて見回せば、人待ち顔の人、人、人。
誰が待ち合わせの相手なのだろうか。顔のわからない相手に対し、太一郎はもう一度携帯電話をかけた。
太一郎が相手の顔を知らないのにはわけがある。
はてな匿名ダイアリー、匿名の日記が集まる所。そのうちの一人が設置したやはり匿名のチャットでつい13時間前に文字で話しただけの相手にカラオケに誘われてのこのこ新宿まで出てきたのだ。
だから、顔はおろか背格好も、年のころも、性別すらわからない。電話番号だけが頼みの綱だ。アニソンが歌いたいなんて言っていたぐらいだから男でオタクだろうとは思う。チャットの感じでは自分よりは若そうだ。昔2chのオフで会ったオタクたちはデブが多かったな、と思い返す。
1分前。かかった。
かかったが、眼前で電話を取った者はいない。
「あーごめんなさいまだ着いていません今改札出たところで!」
「わかりました。待ってます」
驚いた。若い女性の声だ。
5分もすると電話がかかってきた。
「もう一件電話がかかってきたんで、もう一人来ているかもしれないんです。かけなおしてみますね」
「僕一人みたいですね」
「じゃあ、行きましょうか」
彼女の後について歩きだしながら、そんなことを考えていた。
(つづく)
http://anond.hatelabo.jp/20070419001713 「もう一人二人ぐらい来るかと思ったんですけど」 「昨日の今日ですからね。いくらなんでもいきなり過ぎました」 「私と一人だけでカラオケするのが嫌だ...
http://anond.hatelabo.jp/20070422000431 その頃無口な増田たちはカラオケボックスで黙々とカードゲームをやっていた。
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http://anond.hatelabo.jp/20070419001713 「なんだか物によっては周辺の2次創作だけ抑えて判った気になってしまうんです」 「そ、そりゃいかんですよ。僕は原作を極力おさえるようにして…」 女...