2024-05-06

anond:20240506115921

ここで昼餉真赤な夏の花佇つゆゑ

(ここでひるげ・まっか/まあかななつのはなたつゆえ)

   

中村草田男(なかむら・くさたお)という明治まれ俳人の句で、上5と下5が字余り(ないし、中7と下5が「句またがり」)なので素直に十七音ではないね。書いている俺もこの句は知らなかったけど、読み取ってみようと思うよ。長くなるけどそれはしょうがないと諦めてくれ。

   

内容は、すごいざっくばらんに書かれた意味だけを言うと「ここで昼食にしよう、(近くに)赤い夏の花が咲いているから」だね。まぁ言葉意味だけ追っても俳句は分からないので、ここから深掘りしないといけない。

  

まず俳句は、その映像を思い浮かべるところから始まるよ。

  

「ここで昼食にしよう」ってことは、昼食の場所を選べるわけだね。すぐ後に「夏の花」があるので、それがある環境、つまり野外だということも読み取れる。夏で野外で食事場所を選べるとなると、これはつまり弁当を持って散策ハイキング的な行楽を思い浮かべるよね。

行楽なら、高原とか草原とか、そういう緑の多い場所が思い浮かぶね。(明治まれの人の句だから現代的な行楽とは違って、素朴なものだと思うよ)

行楽に出るくらいだから、天気は良いのだろうね。夏の晴れの日。緑の丘、青い空、流れる白い雲。夏の行楽は避暑目的、涼を求めてするので、高原の涼やかな空気感、風の流れも想像できるね。

昼食前から出発して、そろそろ腹が減ってきたのかな。そこで真っ赤な花が目を惹いたのだろうね。この赤い花の傍で弁当を食おう、と決めた。そういう句だろう。

ここまで丁寧に「そう連想される理屈」も書いたけど、俳句をそれなりにやってる人はこういう読み方に慣れているので、元の句を見ればすぐに、「行楽、夏の緑の中、赤い花の傍でお弁当を食べる」という映像直観的に思い浮かぶと思う。

   

ここまで映像を読み取ったけど、増田が知りたい「どう凄いか」とは、その映像をどう鑑賞するのか、というところになると思う。

   

「ここで昼餉」といきなり強い意志を示したね。普通俳句は作者の意思思考など入れ込まないので、これは珍しい作りだ。ちなみに短歌は人の意思を盛り込むのが普通なので、元増田にとっては「短歌で慣れたスタイル」だから、印象が強かったのかもね。確かにインパクトがあってちょっと驚かされる。もっと言うと、字余りとした分、「本来入りきらないものを押し込めた」ことによる作者としての強い意志、この「ここで昼餉」と決断した意思の強さも表現されていると思う。

  

「昼餉」の後は、なぜこの場所食事場所として選んだか、の理由を述べている。「真赤な花が咲いている/立っているから」と。

夏にまつわる緑や青を連想させつつ、ここで「真赤」と、異なる系統の強烈な色をぶつけてきたね。これもインパクトになる。「赤い」ではなく「真赤」としたのも、インパクトを強める方向へ作用しているね。

しかも「佇つ」とした。「佇む・たたずむ」は、静かに立っている、じっとしているという意味だ。夏の高原で風まで想像していた、ゆるやかな「動」の映像の中に、急に「静」が放り込まれた。これもインパクトだね。さらに言うと、「佇つ」という一言からは、その花が何本も群生している光景よりは、一本だけが生えている様子を思い浮かべる。青、緑の中に一点だけ「赤」が生まれた。この対比が映像としてとても鮮やかだ。美しさも感じる。うがった見方をすれば、この句を詠んでいる時、作者の中村自身が花の傍で「佇んでいた」のだろうな、と想像することも出来るね。その並びの映像ちょっとばかり面白みも感じるよ。

   

まとめると、作者の中村はしばらく、同じような「夏の風景」の緑や青の中を歩いてきたんだと思う。そこへ、まったく違う「赤」という色が浮かんだ。その鮮やかな驚きと、その赤の美しさ、魅力が彼の足を止めさせ、ここで昼食にしてこの花を眺めていよう・この花と並んでいようと思わせ、さらには句に詠ませたのではないかなと思ったよ。個人的にはその驚きに共感したし、表現も切れ味あって良かったし、良い句だと思ったよ。句にする価値のある驚きだった。(名作かと訊かれたらさすがに考えるけど)

   

俳句は情景・映像を詠むもので、作者の意思感情感傷を直接に書くことはないんだけど、情景の中に感情を織り込むことは可能で、この句はそのように情景や映像の中に作者の驚きを詰め込んだ句になると思うよ。

  

でも俺は下手の横好きでしかないし、人にこんなこと説明するのも初めてなんで、実は的外れなこと書いてたらごめんな。

記事への反応 -
  • どうも、趣味で短歌をやっている兄ちゃんです たまに俳句を作っては思う 俳句って難しすぎない?ってね まずそもそも17音は短すぎる これを入れたいな、例えば美味しかったを入れよ...

    • ここで昼餉真赤な夏の花佇つゆゑ だれかこのハイクのすごいところを解説してくれ〜。全然575じゃないし何がどうすごいのか分からないよ〜。

      • ここで昼餉真赤な夏の花佇つゆゑ (ここでひるげ・まっか/まあかななつのはなたつゆえ)     中村草田男(なかむら・くさたお)という明治生まれの俳人の句で、上5と下5が字...

        • 質問した増田だけど、解説のおかげで場景が思い浮かんだよ! ありがとう!

        • 夏の昼に咲く真っ赤な花って何を指してるのだろう? 明治時代なので輸入された園芸種ではなく日本本州の自生種だろうが該当するものがほとんどない。 東京住まいの作者が目にした...

        • 悪いということではないんだが、この句は表記に大分頼ってる感じがあるな たとえば昼餉、佇つ、ゆゑといった特殊なところを普通にすると、普通の句になる気がする   ここで昼餉真...

      • ここで俳句の解説するとボロクソ言われるのが落ちなので、リアルで相談した方がいいよ。 …というのは、俳句は滅茶苦茶コンテクスト(文脈)に依存する芸術だからだ。短歌31文字...

        • 質問増田だよ。この一句でこんなに語ることがあるのか!と関心しきりでございます。となるとやはりすごい句なんだね。 解説してくれてありがとう!

        • なにが「ハイコテンクスだから(ドヤァ」だよ。要するに閉じコン(閉じられたコンテンツ)ってことじゃねえか。身 内の中でマニアックなことした選手権かまして、俺達マジやって...

          • 受け継がれてきた場所を駄サイクル化させて自分たちのオナニーのために使い切っちゃう人達って実際いるよなあ。 会社も文化も全部これやられて滅びてくからマジで最低のイナゴ野郎...

          • ところが和歌や漢詩や仏教を踏まえた芭蕉の超ハイコンテクストな俳句は世界で大人気、一方サラリーマン川柳は相手にされていないんだよね

          • ごまめのはぎしり

        • 「実はおれ魔法少女と告げる雪」 この俳句鑑賞して

          • 「実はおれ魔法少女と告げる雪」    結社に入ったりしてない不勉強な身でよければ。 俳句としては「「実はおれ魔法少女と告げる/雪」」と二つの流れに分かれるね。 意図したかど...

            • カッケー解説でお題の句がカッコよくみえてきた アナタ、DJの才能がありますね!

            • さすがだな Chat GPTだとこんな感じの鑑賞だったよ まだまだ人間が上か この俳句は、日本の伝統的な文化である俳句の形式を使用していますが、その内容は現代のポップカルチャーとの...

            • ありがとう!現代俳句の本にあった俳句なんだが、よくわからなかったから聞いてみたよ 解説をみるとやっぱりちゃんと作られてるんだね

              • 観賞した増田だよ。 なるほどー、いや道理で、即興で作ったにしちゃすごいちゃんと俳句になってるなと思ったんだ。(あなたがその場で即興で作ったもんだと思ってた) 季語の使い方...

                • これ偶然だろうけど、かなり面白いやり取りを見た気がする。 鑑賞増田は、素人の作品だと思っていながら、知らない俳句の意味や技術をちゃんと評価できた。 いかにも俳句っぽくない...

                • 鑑賞増田とは別の俳句かじり増田だけど、この句は軽く作ってるようにみえてかなりかっちりできてるよ いわゆる一語一語が「動かない」ってやつだね つまり言葉の選択に必然性があっ...

                  • いわゆる一語一語が「動かない」ってやつだね 「雪」が。「月」や「花」や、あるいはモチやシャケやカニでも、案外成立しちゃうような気がするんだけどなーw オレ才能ないからし...

                    • 入れてみたらええやん 他のだと原句の静寂感とか緊張感が出ないと思うよ

                • すまない、作者を書き忘れてた 赤野四羽という現代俳句の人の「ホフリ」という本からです 変わった俳句が多かったよ

            • なかなかプレバトでは見ないタイプのエモい俳句だと思うけど、短歌の人的にはどうなんだろう

    • ここで昼餉真赤な夏の花佇つゆゑ 花佇つゆゑ←なんて読むの?

    • 「野ざらしで吹きっさらしの肺である」だけでもいいと思うけどな。

      • 「戦って勝つために生まれた」なんて俳句に入れたらプレバトの夏井先生は「ただの文章で詩じゃない!」ってぶち切れてるよな

        • ワイくん小学生の頃、箇条書きの縦書き散文を詩と称して提出して担任のオバチャン先生に怒られた想い出ありやで

      • 全部語らないのが俳句だよな

    • 俳句は有限 https://horicun.moo.jp/contents/haiku/  ↑全俳句データベース https://jhaiku.com/  こんなのも

    • 俳句は隙あらば自分語りを戒めてくれるんやね

      • 確かに短歌の方が一人称性にこだわるかも(そうでない人も最近は多いけど)

    • 俺も最近短歌かじり始めたけど、元増田に同感だわ。 でも俳句やってる人からすると、短歌の方が難しいらしい。 穂村弘の対談集『あの人と短歌』の小澤實の回が面白かったよ。

    • 俳句とか教養ぶっているけれど、要するにラップバトルと同じだろ。 偉そうな態度気取って季語入れて、消臭が上手く行ったと思い込むその態度からにじみ出るバカらしさ、いい加減虚...

      • 芸術と趣味は虚しくなったらしぬだけだぞ

      • 和歌や漢詩と比べてもなんか俳句だけイキリが強いイメージはあるな 未だに正岡子規のメンタリティを引きずってるんだろうか

        • 文字数が少なくなるほど忖度とエコーチェンバーが加速しやすくなって、身内でワイワイやって皆で頭おかしくなる傾向にあるんだろ。 はてなもブログが互助会のせいで滅ぼされて、1...

      • これ、全部575でつくってるのな。ラップ系の人のリズム感て、即興性が問われる面含めてなかなか大したものだと思う。 俳句とか教養ぶっているけれど、 要するにラップバトルと同じ...

    • >> これを入れたいな、例えば美味しかったを入れようとする << この時点で短歌の考え方になっちゃってる。 短歌なら気持ちをそのまま入れてもいいけど、俳句は基本的に物や...

    • 短歌ってだいたい上の句で写生、下の句で心情を入れるけど、確かに「心情なんて要らなくね?」と思う瞬間はあるんだよな。

    • https://anond.hatelabo.jp/20240506061423 短歌の結社に入っていて、歌会にもよく参加していたことがあるが、元増田のような話は何度も聞いたことがある。もはや歌人あるあるネタだし、私も深...

      • それは虚子以降のホトトギスのデマなんだよね そもそも子規は俳句も短歌も両方詠みまくっていた ところが虚子の代で「客観写生」とかいうトンデモスローガンに汚染されて、つまらん...

      • あーそれで俺短歌は好きだけど俳句にはあんまり興味わかないのかな。風景とかどーでもいい。人間の情念を味わいたい。マンガ読んでも「そんな背景とかに力入れるくらいならもっと...

        • 現代俳句はわりと情念強いよ 神野紗季とか結構ドロドロしてて面白い

          • 現代俳句って風景というか心象風景だよね https://gendaihaiku.gr.jp/about/award/newface_award/page-10877/

      • じゃあ俳句神の俺の俳句をどうぞ バカはアホ なぜならバカは アホだから

      •   anond:20240506174540 に追記しようとしたら長すぎたので記事を改める。 meganeya3 短歌の考えは知らんが増田の俳句の考えとして「やせ蛙 負けるな一茶 ここにあり」はどうなの? 私の短...

        • この句における一茶はあくまでも風景の一要素としてやせ蛙と並列されている。つまりは蛙ごときに向かい合って必死になっている俳人の描写である。 すっげーオリジナリティ溢れる...

        • 奥村の歌はシステムに自発的に従わされて同じ向きを向いている大衆の気持ち悪さって情念だよな

        • もしかして短歌や俳句って面白い?

        • 俳句が"情念"や"私"を盛る器たり得るか? というのは、増田の言う通りあるあるネタだと思うが、正直情念マシマシの俳人もいるので、情念一本槍で説明するのはちょっと難しいんじゃな...

          • わかる 個人的には竹下しづの女のこの句も情念もりもりで好き 短夜や乳ぜり啼く児を須可捨焉乎(すてつちまをか)

          • 橋本夢道もいいぞ さんま食いたしされどさんまは空を泳ぐ                            

      • 一部界隈で炎上?した9条デモ俳句はどうなんだろうか 滅茶苦茶情念こもってるように感じるが

        • >梅雨空に『九条守れ』の女性デモ   俳句としてはデモの光景を書いただけの凡作だけど、ネトウヨの情念にはめちゃ刺さるみたいなんだよね。 そこが俳句の面白さでもある。

      • ふと好きな夏目漱石の俳句「菫ほどな 小さき人に 生まれたし」には自我があるなと思う 要は短歌でも俳句でも近代的自我を入れ込む流行があるということじゃないか 近代的自我とい...

    • 俳句やってる身からすると短歌の方が難しいよ 表現したいことに対して文字数が多すぎて持て余しちゃうというか… 例に挙げられた短歌を俳句にするとしたら ・戦って勝つための生青...

    • ゼミでやらされながら短歌も俳句も自分にゃ無理だな!!!となった者だけれど,大事なことは古今和歌集仮名序が既に全部言ってるんだなあ……と思う今日この頃。 やまとうた(...

    • https://anond.hatelabo.jp/20240506061423 のブコメを読みながら「心情が〜」「我を表現するものが〜」みたいなコメントが気になって 「そんなに心情入れたがるものか?」と思って 心情が無い(...

      • たまたまラジオで文芸選評を聞いていて、「深海魚一つ沈めて掻き混ぜた紅茶のような目で見ていてよ」ってので、解説の方もなんか困ってた感じだったのでAI生成でもした文送りつけら...

      • 「情景」という概念を知らなさそう

      • 穂村弘のアンバサダーちからよ

    • 増田には教養のある人がすくないんだなとわかる。

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