はてなキーワード: はるさめとは
春雨サラダを見るたび、ばあちゃんのことを思い出す。
オレ、ずっとばあちゃんに育てられてきたようなもんなんだけど、ばあちゃんの昼メシといやあ春雨サラダ。あるでしょ、惣菜屋でグラム売りとかしてるようなやつ。安そうなハムとかキュウリとか入っててさ、あれ。
子供の頃はあれがいまいち好きになれなくて、ちょっと食べては「おいしいよ」って言って。美味しいからばあちゃんこそ食べなよ、って言ってばあちゃんに押し付けてたんだ。今だから言える話だけどさ。
「嫌いなのかい」って言うから、そんなわけないって言ったら、次の日の弁当は早速はるさめ弁当。弁当箱内オール春雨サラダ。弁当箱、酢でたぽんたぽん。ばあちゃん手作りの弁当袋も、酢でびっちょびちょだった。
ばあちゃん、これ困るから、こういうのちょっとなんとかしてくれよ、って言ったら、ばあちゃん「はるさめ、嫌いかい?」って悲しそうな顔するんだ。違う違う、春雨サラダはおいしかったよ、って言ったんだけど、やっぱりばあちゃんの暗い顔は明るくならなかった。
そんなこんなで、春雨サラダは嫌いじゃないって言い続けてたら、いつの間にか春雨サラダも悪くないって思うようにはなってきたんだけど、そのときにはもう、オレはばあちゃんの買ってきてくれる春雨サラダを食べることはできなくなっていたんだ。
本当はオレ、一度でいいから言いたかったんだ。そんな店屋物じゃなくて、ばあちゃんの手料理が一番うまいって。無駄遣いひとつしなかったばあちゃんが、わざわざごちそうだよって買ってきてくれたのに、いらないなんて言えなかったけど。本当は、ばあちゃんの手料理が一番のご馳走なんだって、今までずっと言いたくて、いえなかった。ばあちゃん、ごめんな。
なんか、変な話してごめんなさい。
え、早くしろって? ごめんごめん。千代子さん、入れ歯入れてあげて。佳代子ちゃんはスープ注いであげてね。美代子さん、ナプキンお願いしまーす。
えー、では。所用で帰国できない両親に代わりまして、わたくし僭越ではありますが乾杯の音頭を取らせていただきます。……あー、いいよいいよばあちゃん。オレの分のスープもちゃんとあるから。そうそう、オレフカヒレは春雨サラダ思い出すから大好きだよ。いやいやフカヒレ弁当はいいよ。漏れる漏れないの話じゃなくて。ほら亜沙子さん、車椅子を向こうへ。そうそう。
では改めまして、ばあちゃんの「完全防水・防臭素材」の特許取得、並びに製品化・事業化を祝しまして、乾杯!