はてなキーワード: 死神とは
わたしが道を歩いていると、死神が現れた。
「しにば……死神だ!」
しばし時が止まり、三秒ほどして動き出した。わたしはため息をついてこういった。
「かんだ。減点百七十二。マイナス七十二点で終わり」
「先輩、そんな殺生なっ。かんだだけじゃないですか」
腕をばさばさして抗議する後輩死神に対し、わたしの声は冷淡だった。
「登場でレゾンテートルである所の名前をヘマる。これは緊張感の欠如に他ならない。そんなのでは最初っからなめられるのよ。というかむしろなめてるでしょ、わたしを。いちいちあんたの練習に付き合ってるわたしを。いやいややってるわたしを。よって大減点。マイナス。もう帰る」
「か、帰らんといてくださいー。本当に帰らんといてください。次は、次こそはー」
「次はない。どんな出会いも一度目が肝心なの。それを……」
「うわーん。すんませんすんません。あたしが悪かったです。だからもう一度今一度!」
後輩死神は頭を地に伏してずりずりし始めた。流石にほんのり不憫に思えてきたので、許してやる事にした。
「一度だけよ。それ以上はなし。今度マイナスだと晩御飯おごってもらうわ。それも肉を」
「う……。わ、わかりました! 次こそ見せに見せつけますよ!」
わたしが道を歩いていると、死神が現れた。
「死神だ! お前の命もここまでだ。おとなしく魂を寄こせ!」、
「……へ?」
「いやと言おうが何をしようが、お前の命はもうここ……、ま、で?」
時間が止まる。わたしは、死神、と名乗った黒ずくめを目の前に固まってしまった。
し、死神?
マジで? そんなの、想像の産物じゃないの? というかこの人、おかしい人?
わたしが逡巡している間、死神(?)はしまった、という顔で固まり続けていたが、じわりじわりと顔が横を向き、横を越えて後ろを向いて、そこで何故か半笑いになるや、こちららを向き、一つ頭を下げてから悲しさの含まれた笑いをして、
「な、なんちゃって!」
「はあ?」
「なんちゃって!! どっきりでしたー! なんちゃってー! 死神? 何の事? というか言いましたっけそんな事? そう、言ってない。言ってないー」
と、哀しいくらいにおどけた調子で喋り始めた。余りの痛々しさにわたしが何もフォローできずに呆けていると、その顔が更に死神(?)を傷つけたのか、
「言ってないーーーーーッッ!!」
と、半ばやけっぱちで叫んで、高速バックダッシュで死神(?)は視界から消えていった。
わたしが道を歩いていると、死神がバックダッシュしながら現れた。
「いきなり罵倒。減点千飛んで十二。十回失敗に相当。落第」
「んな殺生なー! というかなんで違う人がいるんですか! なんで先輩じゃないんですかー! もうー! 馬鹿??!」
バックダッシュのまま併走してくる後輩を、わたしは自慢の冷酷無比な眼差しで見つめた。効果はすぐに、後輩がバックダッシュをやめ、普通に歩き出すと言う形で表れた。
とぼとぼ、という失意に満ちた足取りでわたしの横を歩く後輩。まだ小さく「先輩の馬鹿先輩の馬鹿」と呟いている。少しうるさいので、ここは黙らす事にした。
「黙りなさい。大体ね、こういう突発時の処置がいまいちだから、再研修を課せられるのよ。それなのに失敗したからって、わたしを馬鹿扱いはないんじゃない?」
「それは後ろで笑いをかみ殺してた人の言うことじゃないですよ! なんですかあれ! 初めてみた顔でしたよ!?」
口角泡とばしてくってかかる後輩に、わたしは冷静に諭した。
「よかったわね、レアなもの見れて」
「こんな場面で見たくないですよ! それに落第って!? これ、いつから降格試験になってたんです!? その前の練習でしょ!?」
「こんな事で取り乱してたら、本番でも落第確実よ。まあ、試験官はここまで悪質なことはしないだろうけど」
「ならそんな事しないでくださいよ!?」
「さて、戯言はこれくらいにして。覚えてるわよね? 肉のこと」
「こ、これのためかっ……」
「分かってるんなら、さっさと着替えてきなさい」
戦慄する後輩を尻目に、わたしは道を歩き続きけた。