医療事務のアルバイトから、看護師、保健師となった。
無資格期間を含めれば、人生の半分以上を医療現場で過ごしていたかもしれない。
幸い私は手先が器用な方で、恋愛には向いておらず、体力もあったので人生を医療現場に捧げるのに向いていた。
新型コロナウイルスの渦中で休みがなくとも、同僚が泣きながら辞めていこうとも、現場から必要とされる限り私は医療に携わるつもりだった。
今日、魔が差しました。
保健師で保健センターで働くということは、公務員でもあります。
新型コロナワクチン接種も主体となって行っていました。
住民の皆さんに少しでも安心して接種していただけるように尽力し、他府県の自治体から参考に意見を求められるくらいスムーズに回せるようにしました。
けどクレームってやっぱりあるんですね。
まぁ公務員なんて住民のサンドバックみたいなもんですから、慣れっこと言えば慣れっこなんですけど。
さすがにしっぽと尾ひれに誹謗中傷満載の医療に関する質問が連続でくると疲れます。
何より本当に不安に思って相談してくださる方からの質問に答えられませんから申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
当然ですが、公務員といえば普通に医療現場でいるより住民の方の情報を知ってしまう可能性があります。
それは私も同じです。
本日接種にこられた方を私は医療事故でどうにかするつもりでした。
その人は連日暴言や誹謗中傷を相談ダイヤルに言う人でした。
暴言と言っても明確に罪になるようなことは避け、ひたすらネチネチ長時間クレームを言う人です。
毅然とした態度を取ろうとも、何度説明を繰り返そうとも電話をかけてきては「ワクチン接種に関して質問がある」と言って些細な医療の質問のあと同じクレームを繰り返します。
かといって営業妨害になるほど頻繁でもなく、それでいて絶妙に事業に支障をきたす、一番死んでほしい人でした。
その人が今日接種にこられました。
あれだけワクチンのことについて批判を言っていたのに我先に列を乱して来場されました。
予約制だから割り込んでも意味ないのにね。
ワクチンの注射への充填作業は私がします。
私はその時、魔が差しました。
一瞬、この人を殺せるのなら同じアンプルから接種される他6名も死んでも良いのではと思いました。
魔が差しただけで、私は通常業務に戻りました。
その人の家族が来場された時もまた、私は魔が差しそうになりました。
帰り道、私はその人の家の近くまで行きました。
その人の家はちょうど橋のすぐ脇というか、池にかかる橋の小さな欄干から見下ろせる位置にありました。
池が増水して流れればいいのに、と思いながら私は池を泳ぐフナに食べそこねた昼食のアンパンの端をちぎってあげました。
その時です。
ちょうど先程購入したペニーロイヤルの種が、偶然風に舞いました。
家庭菜園をするつもりだったのに。
今日は少し風も荒れていましたから、しょうがないですね。
繁殖性の高いミントの種をまき散らかしたのかよ。あんたクズだな。そのせいでクレーマーは余計に周囲に怒りをまき散らかすようになるし、地主もミント駆除で余計な苦労を強いられ...
嫌いな妊婦にハーブティー飲ませて墮胎させるみたいな話だな