2021-01-22

祖父がGに殺され、祖母ももうすぐそうなる。

祖父母は雪国に住んでいた。

たぶん生まれたときからずっとだろう。

他県に旅行くらいは行ったこともあるだろうが、住まいはずっと雪国だ。

 

だから、Gを見たことがなかった。

かくいう俺自身も、18歳まで同じ県に住んでいたためGを見たことがなかった。

大学進学のために上京し、初めて見たときは恐怖と驚きで飛び上がってしまったくらいだ。

即座に殺虫剤を買いに行ったものの、家の中にいると思うとなかなか入れず、

友人にどうすればいいか鬼メールしたのも、今となっては良い思い出だ。いや、やっぱあんま良くねえな。

 

とにかく、この孫にしてこの祖父母あり。

Gなんて見たことがなかったであろう祖父母の家に、一昨年ついにGが現れたらしい。

らしいというのは、あくまで父から聞いた話であって、

その父も祖母から聞いた話だから、完全なる又聞きという形になっているからだ。

 

Gを見た祖父は、驚いて飛び上がり、

ついでに血圧も跳ね上がってしまい、脳の血管が切れてしまった。

そのまま倒れ、そのまま入院し、そのまま喋れなくなった。

その話を聞いたときは、さすがに嘘だろと思った。

だが、老人はこの程度のことでも倒れるのだ。

見舞いに行って愕然とした。

祖父は本当に喋れなかったし、動けなかった。

いわゆる寝たきり老人というやつになってしまったのだ。

そのまま1年ほどが経過したころに、ついに亡くなった。

俺にとって初めての身内の不幸という経験だった。

 

一方祖母のほうはというと、G事件のちょっと前から軽くボケはじめていた。

認知症だ。同じ話を延々と繰り返す。それもだいたいは昔話だ。

そこへきて、長年連れ添った夫が倒れてしまったことで、進行が早まった。

さらには、加齢で足腰が弱まっていたため、家の階段で転び骨折してしまった。

骨折すると認知症の進行が早まるというのは本当らしい。

父がいうには、もう連れ添った夫の存在すら忘却の彼方へと飛んでいったそうだ。

 

祖父が入院、祖母は認知症。

県外住みということもあり、さすがに面倒を見きれなかった一人息子の父は、祖母を老人ホームに入居させた。

そこでの生活中に祖父が亡くなったわけだが、父はまだそのことを祖母に伝えていないらしい。

その判断が正しいのかどうかはわからない。

もはや忘れてしまったであろう人のことだ。知らないほうが幸せなのかもしれない。

そんな状況だから、まあ祖母もそう長くはないのだろう。

 

祖父は無口だが、若い頃は孫2人を両脇に抱えて散歩するかっこいい人だった。

書道も上手で、地元ではわりと有名だったらしい。

祖父母の家に行くたびに新しい作品が部屋に散乱していたが、

あまりに達筆すぎてなんと書いてあるのかは全然わからなかった。

 

祖母は、まあありがちな孫煩悩なおばあちゃんだった。

オブラートに包まれたグミともキャンディともつかない甘味を出すし、

もう食べられないと言っているのに「これも食べな」といろいろと出してくる、絵に描いたようなおばあちゃんだ。

ボケ始める前は老人友達同士、シニアゴルフなんかを楽しんでいたりもしたようだ。

 

そんな祖父母が、Gに殺された。別に笑ってもらっていい。

これが原因でGへの憎しみが倍増したとかそんな話ではない。元々カンストしてるし。

ただ、人間ってちょっとしたことで死んでしまうんだなと思った。

もちろん年齢もあるんだろうけど。

どっちにしても、今日まで元気だった人が明日も元気とは限らない。

それも交通事故だとか通り魔だとか、そんな衝撃的なことによるとは限らない。

ただGが出るだけで、こうなる人もいるんだ。

人生ってのはままならねえなあ。

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