祖父母は雪国に住んでいた。
たぶん生まれたときからずっとだろう。
他県に旅行くらいは行ったこともあるだろうが、住まいはずっと雪国だ。
だから、Gを見たことがなかった。
かくいう俺自身も、18歳まで同じ県に住んでいたためGを見たことがなかった。
大学進学のために上京し、初めて見たときは恐怖と驚きで飛び上がってしまったくらいだ。
即座に殺虫剤を買いに行ったものの、家の中にいると思うとなかなか入れず、
友人にどうすればいいか鬼メールしたのも、今となっては良い思い出だ。いや、やっぱあんま良くねえな。
とにかく、この孫にしてこの祖父母あり。
Gなんて見たことがなかったであろう祖父母の家に、一昨年ついにGが現れたらしい。
らしいというのは、あくまで父から聞いた話であって、
その父も祖母から聞いた話だから、完全なる又聞きという形になっているからだ。
Gを見た祖父は、驚いて飛び上がり、
ついでに血圧も跳ね上がってしまい、脳の血管が切れてしまった。
そのまま倒れ、そのまま入院し、そのまま喋れなくなった。
その話を聞いたときは、さすがに嘘だろと思った。
だが、老人はこの程度のことでも倒れるのだ。
見舞いに行って愕然とした。
祖父は本当に喋れなかったし、動けなかった。
いわゆる寝たきり老人というやつになってしまったのだ。
そのまま1年ほどが経過したころに、ついに亡くなった。
俺にとって初めての身内の不幸という経験だった。
一方祖母のほうはというと、G事件のちょっと前から軽くボケはじめていた。
認知症だ。同じ話を延々と繰り返す。それもだいたいは昔話だ。
そこへきて、長年連れ添った夫が倒れてしまったことで、進行が早まった。
さらには、加齢で足腰が弱まっていたため、家の階段で転び骨折してしまった。
骨折すると認知症の進行が早まるというのは本当らしい。
父がいうには、もう連れ添った夫の存在すら忘却の彼方へと飛んでいったそうだ。
祖父が入院、祖母は認知症。
県外住みということもあり、さすがに面倒を見きれなかった一人息子の父は、祖母を老人ホームに入居させた。
そこでの生活中に祖父が亡くなったわけだが、父はまだそのことを祖母に伝えていないらしい。
その判断が正しいのかどうかはわからない。
もはや忘れてしまったであろう人のことだ。知らないほうが幸せなのかもしれない。
そんな状況だから、まあ祖母もそう長くはないのだろう。
祖父は無口だが、若い頃は孫2人を両脇に抱えて散歩するかっこいい人だった。
書道も上手で、地元ではわりと有名だったらしい。
祖父母の家に行くたびに新しい作品が部屋に散乱していたが、
あまりに達筆すぎてなんと書いてあるのかは全然わからなかった。
祖母は、まあありがちな孫煩悩なおばあちゃんだった。
オブラートに包まれたグミともキャンディともつかない甘味を出すし、
もう食べられないと言っているのに「これも食べな」といろいろと出してくる、絵に描いたようなおばあちゃんだ。
ボケ始める前は老人友達同士、シニアゴルフなんかを楽しんでいたりもしたようだ。
そんな祖父母が、Gに殺された。別に笑ってもらっていい。
これが原因でGへの憎しみが倍増したとかそんな話ではない。元々カンストしてるし。
ただ、人間ってちょっとしたことで死んでしまうんだなと思った。
もちろん年齢もあるんだろうけど。
どっちにしても、今日まで元気だった人が明日も元気とは限らない。
それも交通事故だとか通り魔だとか、そんな衝撃的なことによるとは限らない。
ただGが出るだけで、こうなる人もいるんだ。
人生ってのはままならねえなあ。
独身男性『ままならねえなあ』
最後まで読んでくれてありがとうな。 特にオチは思い浮かばなくて、ただ聞いてほしかっただけなんだ。
きっしょ
地球温暖化だ
オオアリクイほどのインパクトはないな……