入籍を予定している。
相手の名前は千帆という。
出会った頃は、ただの千帆。
彼女は11歳年下の21歳だった。
ずっと、中途半端な関係を続けていた。
俺が、千帆に対してそういう関係を強いてきた。
千帆も、俺の気持ちを察してだろう、静かに寄り添うように、ただそこに居ることを選んだ。
そして、素知らぬ顔で時間だけが過ぎていった。
笑顔を交わし、体を重ね、何気ない日々を過ごすうちに、
情だけが、雪のように降り積もっていった。
恋とか愛とか、そういうものよりも先に、俺たちの間には、しんしんと、情だけが。
二人で笑いながら過ごす一見暖かな毎日は、だから、本当は、冬だった。
他人には決して理解できない、いろいろなことがあった。
不揃いな色を集めただけのような、あるいは思いつきで音を並べただけのような、
そんな混沌として、統一感のない、つぎはぎだらけの毎日だった。
だけど今、振り返ってみると、一枚の絵のように、一つの曲のように、感じられる。
春が近づいて柔らかくなった雪の間から、夏に憧れた植物の芽が顔を出すように、
降り積もった情をかきわけ、愛を目がけて恋が芽生える、そういうことがあっても良いはずだ。
そんな関係も決して間違いではないと思うし、俺と千帆は、そういう二人なのだ。
冬が終わり、春が来て、そして、千帆の左手薬指には小さな蕾みがなっている。
春は歌う。
冬を恨まず、夏を妬まず。
春が歌う。
冬を慰め、夏を想い。
入籍を予定している。
相手の名前は千帆という。
二年半前にただの千帆だった彼女は、
24歳になった今、かけがえのない千帆になっている。
幻覚が見えているようですね。プリントアウトして病院に行かれることを勧めます。