2010-07-20

父親の酒乱

私の父親は酒を呑むと人格をなくす、所謂酒乱である。

幼い時から数えてその蛮行は数知れず、常に母親を泣かしてきた。

だが、父も年を取り、孫ができて多少の酒癖の悪さは残っても

節度はわきまえるだろうと思っていた。

甘かった。長年の酒癖は、もはや別人格として父親の中に居座っていた。

今まで、自分の妻には酒癖が悪い程度にしか伝えていなかったのだが、

今日実家に遊びに行った際に、ささいなことで別人格が爆発した。

それは孫である私の子に対する誹謗中傷に妻が一言を言ったのが

きっかけであった。

誹謗中傷の時点で本来止めるべきであったのだが、幼い頃からの慣れという

のは恐ろしい。私は父親のそれを子供に対するからかい程度に感じていた。

今日の爆発も過去の数々に比べれば小爆発程度。

だが、それだけで一般人である妻がショックを受けるのには充分だった。

妻に怒鳴り散らし、椅子を蹴飛ばし恫喝する。この時点で止めに入ったのだが

とき既に遅く、妻はショックの余り、震えて泣き出し始めた。

子供は幼すぎていみが理解できず、無邪気に祖父にじゃれついているが、

私の父の怒りは収まらず、危険と判断して妻子を連れて逃げるように実家から

帰ってきた。別れ際に母の悲しそうな顔が忘れられない。

結婚してから、あれほどまでに父の酒乱が起こらないようにしていたのに

今日は全く油断していた。いや、通常の感覚を持つ人間であれば不穏な空気

感じ取って対処していただろう。だが、私は車の運転のためシラフにもかかわらず、

それを見逃してしまった。かつての家庭の空気に染まっていたのだろう。

むしろ、これくらいのことで泣き出す妻に苛立を感じていた。それは心に

止めておいた。あれが通常の人間感覚なのだ。

帰宅の途、妻をなだめるのは大変であった。もう二度と私の実家には行かない。

私が長男だと言っても絶対同居はできない。もっともだろう。

父親はシラフでいるときは私の子にとって良い祖父であった。目に入れても痛く

ないという様がよくわかる。だが、今後こういう機会を作ることができるだろうか。

とばっちりを食らった形の母親にも申し訳なく思う。

そして何より妻に対しても。

あの時間をあれほどまでに幸せに感じていたのにほんの少しの油断で水泡に

帰してしまった。自分自身に怒りを感じる。

そして、父親に対しても。シラフの時の好々爺がどうしてああなってしまうのか。

思えば父親は昔から酒で失敗してきた。他人と身内の区別を問わず、酒の席で

諍いを起こす。父の前から人が消えていったが、それでも酒はやめられない。

今日、妻に言われた。「あなたにもあの血が入っているのね。」

ショックだった。だが、それは常々自分が恐れていることでもある。

いつも酒に呑まれないよう気を使ってきた。今は大きな失敗をしてはいない。

幼い頃から、あの父親の酒乱をみて絶対真似をするまいと誓って生きてきた。

だが、父親の父親、そしてそのまた父親も同様に酒乱だったそうである。

今日、この血のせいで妻との関係に小さなほころびができてしまった。

将来はどうなっていくのか。

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