彼は自己中心的で自己愛が強くて人を無意識に利用するような癖があった。
整った顔、長い手足、少しキツイ表情。奥さんは年上で美人、おっとりとしていて彼のすべてを許すような人だと記憶している。
彼は自分がどれほど恵まれた人間なのかをきっちり理解していて、それが更に僕を惨めにさせた。
最初は僕も彼に憧れていたし、彼も僕を親友と呼んでくれていた。
でも腹の中ではそんなこと1ミリも思っていなかったってことがすぐにおしゃべりな友人のおかげで理解できた。
ただただ彼は僕を心の中で馬鹿にし、出来る限り利用してやろう、そう思っていたに過ぎない。
僕は彼を一生許さないだろう。
彼が苦しんで苦しんでひとりぽっちで死ぬ事を強く望んでいる。
そんな事を思ったって何の得にもならない。
でも心の奥でひっそりそう思う事くらい神様だって許してくれると思う。
そんな彼が孤立し仕事も失い家庭から切り離されそうになっていると先日風の頼りに聞いた。
僕は興奮した。
やっぱり神様はいたのだ。
嬉しくて嬉しくて大声で叫んでから泣いた。こんな風に子供みたいに泣いたのはいつぶりだったかわからない。
それからしばらく僕の心は驚くほどに安定し、医師から減薬も勧められた。
あれほど夜も眠れなかったのにその日からは眠れる日がすこしずつ増えた。
このまま僕は正常になっていける、彼の呪縛から逃れられたのだ!なんという幸せ。
そんなふうに考えていたある日、ひょっこり彼は僕の前に姿を表した。
妙に清々しい顔をして、にっこり笑って、すべてうまくいったのだと言う。
新しい仕事が見つかった、妻も許してくれた、やっぱり俺は恵まれている。
そんな話を一通り話し終えてから、急に鋭く僕を見つめて、残念でした、とニヤリと笑った。
そうか、やっぱり神様なんていないに決まっているんだ。
それとももしかすると、彼は神様にすら守られているのかもしれない。
それならば僕がどれだけ憎もうが呪おうが無理に決まっている。
おしまいだ。