母が死んでしばらくたった。
書類の整理をしていたら、僕と弟宛の小さな手紙が見つかった。
おそらく病床で書いたのか、小さな便せんに弱々しい字で書かれていた。
「○○、△△へ
私は今まで生きてきて、何も成し遂げられませんでした。
勉強もできませんでしたし、大きな会社で働くこともありませんでした。
私はあなたたちを授かり、一生懸命育ててきました。
悩むこともありました。腹立たしいときもありました。
でもあなたたちは、私の生きた証です。
あなたたちが生きてさえいれば、私はこの世に生きた意味があったんだと嬉しくなります。
どうか私に代わって、いろいろな経験をしてください。
母親として、あなたたちに最後の小言を書きます。
お金は不幸から自分を守るものだから、必要な物以外に使わないこと。
言葉は相手の気持ちを変えるものだから、口から出すときは相手の気持ちをよく考えること。
人は会話をすると情を持つものだから、怖れずにいろんな人と話をすること。
初孫見せてあげたかったなぁ。結婚しにくい世の中だけど、親からもらった遺伝子はやっぱり
引き継いでいきたい・・・とぼんやり思ったのでした。