2009-09-20

 いよいよ明日だ。そう思うと眠れなかった。

 眠ろうと思うほど目が冴える、不思議な緊張状態。故郷に残してきた妻や子供たちの笑顔が目を閉じると瞼の裏に映し出される。自分が生まれ育って、これからもそこで生きていくと疑わなかった故郷の、土や、緑や、空が、鮮やかな色で彼らの背景を彩っている。

 小さいころはよくあの林で虫取りをしたことを思い出す。隣の家のケンちゃんと競争をして、オレはいつも勝てなかった。あの川で毎年夏になると泳いだ。あの時、大好きだったアキちゃんと一緒に夏祭りへ行けたのは、一生の思い出だった。オレはあの空しか知らなかった。あの町がオレのすべてだった。あの町で大人になって、恋をして、結婚して、子供もできた。オレの子供たちだって、あの町で生きていく。タカシ、サトミ。もう二度と会えないかもしれないけど、絶対に守らなければいけないんだと、何度も何度も繰り返し思った。

 「どうして」という問いも何度も浮かんだ。オレの幸せは全部あの故郷に置いてきてしまった。目を開けて見えるのは、暗い夜の森と、見慣れない空。隣には、昼間中ずっとオレに後頭部だけを見せていた、隣町で米屋をやっていたというナカムラという男が寝息をたてている。こいつはどういう心境でここにいるのか。もう覚悟はできているのか。最初からそんなことなど考えてもいないのか。

 現実感がなかった。明日はついに敵軍と衝突する。本当にそうなのか。死がそこまで迫っているのに。

 気付いたら朝だった。ついに心の整理はつかなかった。逃げ出したい気持ちと今も戦っている。だが、今ここで逃げ出しても、死んでも、あの故郷を二度と見ることはできない。オレがここで戦わなければ、子供たちの未来はない。そう何度も自分に言い聞かせて、重い一歩を踏み出した。踵が地面につくまでの間が、永遠時間のように感じられた。

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