あなたは「普通」という言葉を連発しているけれど、あなたにとっての「普通」って何だろうね。
作家になりたいっていうんだから、古今東西色々な作品を読んでるとは思うけれど、名作と呼ばれる作品の中には、「普通」の人を主人公にしたものもたくさんあるよね。いやもちろん主人公になるだけあって、人物として興味深いわけだけれど、スペックだけ見ればとりたてて特別なものは持っていない、そういうキャラクタ。
作家の眼力っていうのはさ、「普通」の人の「普通」の生活の中に、かけがえのない一瞬やあらゆる感情のスペクトラムを見出すところにあるんじゃないかな。そこにずっとあったけれども見えなかったものを見せてくれる、というのは、良い作品にほぼ共通する要素だと思うね。それはまた、非凡な人の非凡な生活の中に、多くの人の日常と重なる凡庸な瞬間を見出すことにも通じるだろう。
あなたが「普通の企業」で「普通に働いて」…なんて考えて企業の人に接していたとすれば、それは個々の企業のユニークさを捨象して、十把一絡げで見てたってことにならない? 広告業界のクライアントって、ほとんどがあなたの言う「普通の企業」だよ。その普通の中に語るべきことを見出すことで、広告って成り立ってるんじゃない?
あなたが本当に、心の底から、書くことが好きなら。あなたの回りには、あなたに発見され、文章にされることを密かに待っている秘密でいっぱいだ、ということを信じたらいいんじゃないかな。
挫折の経験でさえ、芸の肥やしだよ。そして、物書きになるのに年令制限はない。
「ゆっくり創作活動を」っていうところだけ危険だと思った。