2009-08-27

「よその家庭を見物したかった」

会社の同期同士で上司夫婦のホームパーティに行った。

企画したのはひとりの女の子だった。

夫婦ふたりとも同じ会社の社員。

娘がふたりいて、その日は娘さんの誕生日祝いを兼ねていた。

会社では同僚としてふるまうふたりも、家では夫婦であり父と母だった。

子供は父親である上司に抱きついていた。

「お父さん重たいでしょ。やめなさい」と上司女性が言ったら

「いつもは信二くんっていうんだよ」と子供が言った。

子供の目にも男と女として両親が写るのだなあと思った。

パーティを企画した女の子が

「男の人は自分のお腹から子供が生まれてくるわけではないのに、

 なぜ自分の子供だと確信できるんですか?」と聞いて、

「それは嫁さんのこと信じてるからね。それに生まれた子供見れば自分に似てるってわかるよ」

「奥さんが自分のこと本当に裏切らないって信じられる?」

「うん、な、お前、俺のこと好きだよな?」

「うん」と奥さんが答えた。

「それに、万が一自分の子供じゃないってわかっても、今さら別の子供を交換しようなんて思わないよ。

 遺伝子を好きになったわけじゃないからね」

と男性が言った。

彼女はへえーと不思議そうな顔をしていた。

その日のパーティは終わった。

後日、彼女からメールが来て

「よその家庭を見物したかった。貴重な経験ができてよかったです」と全員にお礼していた。


それから数ヵ月後、彼女は転職した。

そして、例のパーティのしばらく前に、中絶していたことがわかった。

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